「半分機械」の称賛も「偽物」との悩みも…ブレイキン半井重幸、パリで「唯一無二の存在へ」
[エース出陣]<6>ブレイキン男子 半井重幸(ダンサー名SHIGEKIX) 22 第一生命保険
夏のパリ五輪が開幕するまで1か月を切った。目前に迫った大舞台で、注目競技の日本のエースたちはどんな戦いを挑もうとしているのか。担当記者が紹介する。
7月26日のパリ五輪開会式で伝統競技フェンシング女子の江村美咲(立飛ホールディングス)とともに日本選手団の旗手を務める。五輪新競技として注目されるブレイキン(ブレイクダンス)のエースは「ワクワクしながら本番を迎えたい」と思いを口にする。
音楽と完璧に調和した激しいダンス、そこから一転、体全体をピタッと制止する得意の「フリーズ」――。昨年10月のアジア大会(中国・杭州)では、聞き慣れない音楽に即興でダンスを合わせると、「時が止まったかのように(周囲に)見せるフリーズ」を狙い通りに決めて優勝。この競技の日本勢第1号でパリ五輪の出場切符を獲得した。
「頭の中で創造した動きを体で表現するにはハードな反復練習も必要」と2020年頃からサーキットトレーニングを取り入れている。体を徹底的に鍛え上げ、疲れがたまる試合終盤になっても回転技のパワームーブやフリーズのキレが鈍ることはなくなった。20年には世界最高峰の大会「Red Bull BC One」を18歳で制覇した。
繰り出す技の数もどんどん増え、スピードも追求する。ブレイキンを競技スポーツとして極限まで突き詰めるようなスタイルで「ハーフマン、ハーフマシン(半分人間、半分機械)」と評された。だが、ストリートカルチャーから生まれたブレイキンの本質である楽しさや遊び心とは対極のダンス――と、時に否定的に言われることもあったという。「『偽物のブレイキン』のような捉え方をされ、自分自身が否定されたようだった」と悩みを抱えていたことを明かした。
ただ自分自身、アスリートである一方、「アーティスト」という思いは強い。激しい動きの合間に見せる体をくねらせたようなゆとりのあるフットワークも半井の代名詞の一つだ。カルチャーのダンスとスポーツを融合したパフォーマンスを駆使し「世界で唯一無二の存在になる」との信念は揺らぐことはない。今年は2月の全日本選手権で3位だったが、同月の日米対抗戦で23年世界選手権覇者のビクター・モンタルボ(ダンサー名VICTOR、米)を撃破。5月以降は大会出場をセーブし、トレーニングに集中している。