広島の喫茶店「KOBOO」、1年半前に47歳で亡くなった息子と共に 大学ノートにびっしりレシピ 「オムライス、うまかったな」
二人三脚で喫茶店を営んでいた次男を亡くして1年半になる。料理担当がいなくなった「KOBOO(コブー)」(広島市安佐南区緑井3丁目)の厨房(ちゅうぼう)は今、卵をゆでるだけになった。それでも店主の中野悦夫さん(77)は「一緒にやっているつもりだよ」。47歳で早世した功さんを思い、きょうもサイホンでコーヒーを入れる。 【写真】料理担当として店に立つ次男(2016年) 「店手伝うよ」。功さんは福岡県内の大学を卒業した25年前、地元に戻ってきた。料理経験がなく、市内の飲食店で3年間修業し店の厨房に立ち始めた。半熟卵のオムライスや和洋のパスタにドリア…。メニューが充実するにつれ、客も増えた。「大汗をかいてフライパンを振っていた。ナスが入ったカレーソースをかけたオムライスは、うまかったな」。中野さんは2人で歩んだ楽しい時間を懐かしむ。 順風満帆だった日々は2022年に入って崩れた。功さんに末期の膵臓(すいぞう)がんが見つかった。「無理せんでええ」と気遣う中野さんをよそに、功さんは亡くなる1カ月前の23年5月まで厨房に立った。「料理が楽しかったんだろう。客もついてこれからだったのに」。いまでも、功さんの味を求める客が訪れるという。 功さんが亡くなって1カ月後、中野さんは店内で年季の入った1冊の大学ノートを見つけた。店のレシピがびっしりと記されていたことに驚いた。「いつの間に書いたんかのう」。ノートは県内でカフェを営む功さんの知人に託した。「フライパンが重くてわしにはできん。一つでもできるようになってくれれば」。息子がこだわったあの味を、忘れたくはない。
中国新聞社