政府・経団連が進める“なし崩し”の原発再稼働でいいのか 大前研一氏が考える「今後の莫大な電力需要に備える」ための方策
電力も世界の最適地で作る
では、今後の莫大な電力需要をどう賄うのか? 新たなエネルギー安全保障体制を構想しなければならない。 すでに本連載で述べたように、いま世界的にはグリッド(送電網)に接続できない“持ち腐れ”のソーラー(太陽光)発電や風力発電の再生可能エネルギーが膨大に余っている。だから、それを活用すればよいのである。 たとえば、砂漠はソーラーや風力で電気を作り放題だ。そして長距離でも電力損失が小さい高圧直流送電(HVDC)の技術が発展し、それをスイスABBのパワーグリッド事業を買収した日立製作所が持っている。HVDCは8000kmの送電も可能とされているから、オーストラリアのグレートサンディ砂漠、モンゴルのゴビ砂漠、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)の砂漠などで再生可能エネルギーを大規模に発電し、海底ケーブルで日本へ送るのだ。長距離送電に難がある場合は、砂漠の発電施設付近にDCを設置して衛星や光ファイバーで日本とつなぐという方法もある。 暗号資産(仮想通貨)もDCと同じく電力を大量に消費するが、日本がそれらを伸ばしていきたければ、世界規模の解決策を模索するしかないのだ。 政府のエネルギー安全保障は、海外から石油、LNG、石炭をどのように確保するか、国内で原発と再生可能エネルギーをどうするか、ということしか考えていない。しかし、電力も発電効率が悪い国内だけで賄おうとするのではなく、工業製品と同様に最もコストが安い世界の最適地で作って調達すればよいのである。 それに対しては、地震などの災害や戦争などで送電網が寸断されたり、サーバーがダウンしたりしてしまうという懸念もあるだろう。だが、日本は軍事面でアメリカと安全保障条約を結んでいるし、日米豪印のクアッド(QUAD)という安全保障協力の枠組みもある。それと同様に、電力についても前述したような複数の友好国と約して日本版のエネルギー安全保障体制を確立すべきなのだ。 【プロフィール】 大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。 ※週刊ポスト2024年11月22日号