なぜ紀平梨花は逆転Vを果たすことができたのか?
その違和感がSPでのトリプルアクセルの動作を狂わせた。 「ジャンプは左回転なので、選手は、どうしても左にあらかじめ回りたがるという習性があります。回転の始動が早くなるわけです。でも、それをやると、跳ぶ前に回り過ぎて跳べなくなり回転が抜けやすい。シングルアクセルになってしまう理由です。紀平さんのSPでのトリプルアクセルでは、ケガの不安からか、気持ちのどこかで回りたいという気持ちが先走ったのでしょう。明らかに右半身、特に右の肩が回転方向に先に動いてしまい、弓矢の糸を引くような体全体の張り状況を作れていませんでした。だからシングルアクセルになってしまいました」 だが、フリーのトリプルアクセルでは動きが一変していた。 「フリーでは、左足を踏み出したときにしっかりと右肩は残っていました。たった1日で見事に修正したのです」と中庭氏。16歳とは思えぬ恐るべき修正力だ。 また逆転優勝したもうひとつの大きな理由として、中庭氏はジャンプ以外の部分のレベルアップを指摘した。 「今年のルール改正にしたがって、演技全体をひとつの作品として表現するという部分に磨きがかかっていました。ジャンプ、スピン、ステップが演技の中に溶け込んでいるおかげで、全体の流れが際立って良く、プログラムの完成度が高まっていました」 演技構成点で70点を超えたのは紀平ただ一人だった。 左手の薬指の怪我の回復次第だが、当初の予定では、2月21日からオランダで行われるチャレンジカップでステップを踏み3月20日から、さいたまスーパーアリーナで開催する世界選手権へ向かう計画だ。 最大のライバルであるロシア代表はまだ正式に決定していないが、4回転ジャンプを駆使するアンナ・シェルバコワ(14)、アレクサンドラ・トルソワ(14)らは、年齢制限で出場できず、欧州選手権を勝ったソフィア・サモドゥロワ、2位で平昌五輪金メダリストのアリーナ・ザギトワが有力とされる。 中庭氏は「ザギトワは、肉体の変化によってバランスが崩れ、ジャンプの回転不足が顕著です。五輪王者のプレッシャーもあるのでしょう。4回転を跳ぶ14歳コンビは出場しません。紀平さんが圧倒的な優勝候補じゃないでしょうか」と予想している。