会場外には「釜ケ崎解放」!?宣言・声明は3本に分裂、混迷深めたAPEC バイデン大統領のリーダーシップ弱体化を象徴【2023アメリカは今】
米西部サンフランシスコ中心部で11月12~17日にかけ、アジア太平洋経済協力会議(APEC)など自由貿易を推進する一連の国際会議が開かれた。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の対立で注目される中、首脳会議は各国の立場の違いから「分裂状態」に陥り、成果を表明する宣言や声明は三つが乱立。議長を務めたバイデン米大統領のリーダーシップの弱体ぶりを象徴するものになった。 歌手スウィフトさんの名前混同 81歳バイデン氏、高齢に懸念
一方で、会場の外では反グローバル化の大規模デモが繰り広げられ、なぜか「釜ケ崎解放」のTシャツを着た米国人たちの姿もあった。混迷を深める世界情勢が凝縮された現場から報告する。(共同通信ワシントン支局 金友久美子) ▽妥協を重ねたAPEC首脳宣言。新冷戦と新興国隆盛で世界は多極化 日本や米国、中国など21カ国・地域が参加するAPECは今年、アメリカが12年ぶりに議長を務め、岸田文雄首相や中国の習近平国家主席も参加した。サンフランシスコの会場で、バイデン大統領は「アメリカのアジア太平洋地域への関与は揺るぎないものだ」と繰り返した。 しかし、APEC首脳会議最終日に採択された首脳宣言では、バイデン氏の意気込みとは裏腹に、ロシアのウクライナ侵攻やガザの人道問題に言及がない「形だけのもの」に。昨年のタイ・バンコク会議ではウクライナについて指摘しており、大幅に後退した。バイデン氏は議長声明を別途公表し「大半の参加国はウクライナへの侵略を強く非難した」などと明記することでお茶を濁した。
背景にあるのは、新冷戦と呼ばれる中国との緊張関係や、APECに参加するロシアの存在、新興国の隆盛による世界の多極化がある。 ウクライナ侵攻の記載はロシア、中国が反対したと伝えられる。それに加えて、インドネシアとマレーシア、ブルネイの3カ国は独自の共同声明を発表し「ガザ地区における敵対行為の停止につながる即時かつ永続的、持続的な人道停戦を求める」と訴えた。いずれもイスラム教徒を多く抱える国で、イスラエルを支援するバイデン政権との立場の違いが鮮明となった。首脳宣言と議長声明、3カ国の共同声明が入り乱れ「APEC三分裂」の様相を呈した。 ▽対中包囲網の役割を失いつつあるIPEF 日本政府にとって今回の外交ウイークのヤマ場は、バイデン氏が提唱し、日本が全面協力する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の首脳会合だった。トランプ前大統領が環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を決め、バイデン政権になっても国内世論の反発から関税引き下げ交渉は難しい状況の中で米国にとっては「中国が権勢を強めるインド太平洋地域で自国のプレゼンスを示す貴重な枠組み」(米国務省関係者)だ。 だがこれも1年超にわたって交渉を進めてきた全4分野のうち、目玉であるはずの「貿易」分野では合意できなかった。背景にはデジタル協定により大手IT企業だけが私腹を肥やすと批判する米民主党左派や、労働者の権利強化を訴えるバイデン氏の支持層の存在がある。参加国は協議を継続することで一致したが、大統領選が近づく来年以降、交渉の勢いはさらに衰える可能性がある。