新商品が続々登場!リッチか?ドライか? 2024夏 ビール大戦争
暑い。7月に入ってから東京都内では最高気温35℃超えの猛暑日が続いている。そんなある日の夕方、FRIDAY記者が自宅近くのスーパーへ買い物に行くと、汗だくになった仕事帰りのサラリーマンたちがビール棚の前を占拠していた。 【どれが好き?】アサヒ、キリン、サントリー、サッポロ「ビール四天王」商品一覧 その中の一人、40代と思(おぼ)しき男性は、今年4月に発売されたキリンビールの『晴れ風』を凝視。女優の今田美桜(27)が写るポップに惹(ひ)かれたのか、500ml缶を3本カゴに入れ、足早にレジへ。平日の夜からビールを3本とはなんとも贅沢な晩酌だが、労働の疲れと暑さによるダメージを癒(い)やすためには、致し方ない出費なのかもしれない。 「『晴れ風』は、キリンが17年ぶりに生み出した新たなスタンダードビールです。本来、ビールというのはホップの苦みが特徴的な飲み物ですが、晴れ風はそれが控えめで、スムーズに飲める。一方、麦芽を100%使用し、麦の旨味がしっかりと感じ取れるため、ライトなのに飲みごたえもある。ビールが苦手な若者も、ビール好きの中高年も美味しく飲めます」(ビールライターの富江弘幸氏) 『晴れ風』の売れ行きは上々で、キリンが過去15年間で発売したビール類新商品の最高売り上げ記録を更新し、年間販売目標の4割を超える200万ケースを1ヵ月で突破した。このヒットで、キリンは業界1位への返り咲きを図るという。 「キリンは’90年代半ばまで、『キリンラガービール』で業界の覇権を握っていました。『キリンラガー』の前身となる『キリンビール』は1888年から存在する超ロングセラー商品で、お父さんが家に帰ったら『キリンビール』を開けて、テレビで巨人戦を観るというのが昭和の風景でした。’72~’85年には同社の業界シェアが60%、最高で63%を記録。『このままでは独占禁止法に引っかかる』と言われるほどだったのです」(経済ジャーナリストの高井尚之氏) キリンがトップを走るなか、アサヒビールは苦戦を強いられていた。キリンが市場の6割を占めていた’85年、アサヒのシェアは10%を下回っていた。巷(ちまた)では、アサヒビールを沈みゆく太陽になぞらえ「夕日ビール」と揶揄(やゆ)する声が溢(あふ)れていたという。 「起死回生を目指すアサヒは、’86年に『アサヒ生ビール』(マルエフ)を発売。″マルエフ″の愛称は、社内での開発記号が『F』だったことに由来します。翌’87年3月には『アサヒスーパードライ』を世に送り出しました。マルエフはアサヒの技術力を結集し、王道のビールを創り出すことを目標に開発されたものでしたが、その弟分とも言える『スーパードライ』はかなりの変わり種(だね)で、″次世代のビール″だったのです。 アサヒは『スーパードライ』開発にあたって5000人規模の消費者調査を行い、若者がビールのスッキリ感を求めていることを発見。『刺身や天ぷらに合う、ゴクゴク飲めるようなビール』というコンセプトを確立したのです」(高井氏) 発売当初はあまりの飲み口の軽さから「こんなものはビールではない」とコキ下ろされることもあったという『スーパードライ』だが、初年度にいきなり1350万ケースを売り上げた。冒頭に紹介したキリンの『晴れ風』が年間430万ケースを目標にしていることからも、『スーパードライ』の売り上げの凄まじさがわかるだろう。 ◆自らの策に溺れたキリン ところが、当時の『キリンラガー』の壁は厚かった。『スーパードライ』が年間1億2000万~1億3000万ケースを売り上げるメガブランドに成長しても、1位の『キリンラガー』は1億5000万ケース(’94年)を記録していたのだ。 「当時、アサヒは『スーパードライ』を、″生ビール売り上げナンバーワン″と謳(うた)って宣伝していました。当時の『キリンラガー』は製造の過程で熱処理を行うため、生ビールではなかったからです。この謳(うた)い文句を苦々しく思ったのか、なんとキリンは’96年に『キリンラガー』を熱処理しない生ビールに変更してしまった。もちろん味が変わりますから、古くからのファンが離れてしまい、’97年にビールのトップブランドの座を『スーパードライ』に明け渡したのです」(同前) 発売11年でついに業界ナンバーワンとなった『スーパードライ』は、現在に至るまで王座を守り続けている。 「コロナ禍の’21年、アサヒは『スーパードライ生ジョッキ缶』を発売。タブを引き上げると、缶の上面が全開になり、きめ細かい泡がモクモクと発生するのです。缶の内部に特殊な塗料でクレーター状の凹凸を作ることで、泡立ちを実現しています。缶で店のような味わいが楽しめることが、昨今の家飲みブームにマッチしています」(前出・富江氏) この『生ジョッキ缶』は発売3年で約2100万ケースを売り上げた。年間平均で700万ケースは、キリン『晴れ風』の売り上げ目標を上回る数字だ。 若者にも親しみやすい味わいを目指した『晴れ風』と、家飲み需要を捉えた『生ジョッキ缶』。この2者に対し、プレミアム価格帯で覇を唱えたサントリーは、これまでにないスタンダード価格帯で新たな顧客獲得に動いている。 「サントリーのトップブランドといえば、’03年発売の『ザ・プレミアム・モルツ』です。黄金色のパッケージ、’23年から導入した紺色のタブ、そしてフルーティでリッチな味わい。他のビールよりも50円ほど高い価格も相まって、ハレの日に飲む特別なビールにピッタリです。 サントリーはそのイメージを逆手に取り、’23年4月にスタンダードビールの『サントリー生ビール』を発売。パッケージは銀色がベースで、『生』と大きく書かれたロゴからは無骨さを感じます。味わいも、『プレミアム・モルツ』に比べて飲み続けやすいスッキリタイプ。オシャレではないが、だからこそ差別化につながる大衆向けのビールなのです」(飲料専門家の江沢貴弘氏) 『サントリー生ビール』は、発売から1年間で当初の計画の1.3倍となる399万ケースを売り上げるなど好調。ハレの日の『プレミアム・モルツ』、日常使いの『サントリー生ビール』など、さまざまなシチュエーションで消費者のニーズに応えるサントリーは、ビール部門の販売数量が前年比109%と伸長を見せている。 サントリーと同様、高価格帯の『ヱビスビール』とスタンダードビールの『サッポロ黒ラベル』を擁するサッポロビールは、『健康ブーム』に的を絞った。 「日本初の″プリン体・糖質70%オフ″を謳った生ビール『ナナマル』を’23年10月に発売。罪悪感なく生ビールが飲めるとあって、大きな話題を呼びました。しかし、他社がノンアルコールビールや、糖質ゼロのビールテイスト飲料を立て続けに発売したことや、独特の苦みを指摘する声が相次ぐなど、苦戦しています。業界初の試みですし、商品改良によって味が良くなれば面白い存在になると思うのですが……」(飲料業界紙記者) 今では晩酌の定番となった『アサヒスーパードライ』も、発売当初は″異端児″だった。新風吹きすさぶビール業界で新たに覇権を握るのは、消費者が驚くような異質な商品なのかもしれない。 『FRIDAY』2024年7月26日・8月2日合併号より
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