創業59年、地元に愛された漬物店が食衛法改正で閉店 「お客に悪い。どう言うても、しょうがないよのう」【広島発】
“最後の漬物”を惜しむ人々
5月27日が最後の販売になった。製造は英義さん、店番と経理は妻・美智子さんの担当だ。レジの横には使い込まれたそろばんが置いてある。 昔の帳簿を開いて、美智子さんが言った。 「結婚して62年じゃ」 「62年になるんと。ハハハハハ。長かったのう、けんかしながら」 平日にもかかわらず閉店のうわさを聞きつけた多くの人がやって来た。手作りの「白菜漬け」は100g・80円。お客が注文する量だけ大きな樽から取り出されていく。 美智子さんは会計しながらお客一人一人に声をかけた。 「最後までよくしてもらった。はい、400円のお返し」 「ありがとう。寂しゅうなるのう」とお客が言う。 「私も寂しくなる」
食衛法改正で岐路に立つ「手作りの味」
食品衛生法の改正。食の安全のためとはいえ、長年、慣れ親しんだ味との「別れ」に地元の常連客も複雑な思いだ。 「スーパーでは売っていないような味です。仕方ないですよね。ルールですから…」 「おいしいものがなくなっていくのがね。もうちょっと方法はないんかなと思ってね」 最後の白菜漬けは、数時間であっという間に売り切れた。空っぽになった樽をのぞき、「みてた」と英義さん。「なくなった」を意味する広島弁である。達成感とも寂しさとも聞こえる一言だった。 「ありがたいことじゃと思いますよ。長いことお世話になってね」 英義さんがそう言うと、美智子さんは「涙が出る…」と鼻をすすった。英義さんはただ黙ってほほ笑んでいた。 食品衛生法の改正で「手作りの味」は岐路に立たされている。 テレビ新広島が県内21の「道の駅」の漬物の販売状況を調べたところ、6月1日以降、少なくとも17施設で食品衛生法の改正による出荷数の減少が起きていた。そのうち4つの道の駅では“個人の出荷がゼロ”になっていて、影響は県内全体に広がっている。 (テレビ新広島)
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