むやみに触れない方が良い ランドローバー SASローバー ミネルバ・ブラインド 特殊部隊のシリーズ1(1)
特殊部隊のための特別なランドローバー
今日の日差しはジリジリと強い。路面は酷く乾燥し、30km/h程度で走っても石灰の砂埃が一帯に舞い上がる。クルマの接近を、離れた場所の人へ教えてしまうほど。もし本番なら望ましくない状況といえるが、今は大丈夫だ。 【写真】特殊部隊のシリーズ1 ランドローバー SASローバー ミネルバ・ブラインド 初代ジープと新型ディフェンダーも (121枚) 筆者の手の届くところに、ブローニングM2重機関銃が突き出ている。リアシートで身構えるカメラマンの足元には、ロケットランチャーが固定されている。 フロントガラスはなく、隊列を組んで走るならゴーグルが欠かせない。先行車両がなくても、フロントタイヤの角度次第で、跳ね上げた小石がドライバー目掛けて飛んでくる。 行く先に、踏破の難しそうな丘が見える。道幅は車両より僅かに広い程度。頂上より先は見えない。4本のタイヤがトラクションを発揮し、見晴らしのいい場所へ到達する。 筆者がいるのは、グレートブリテン島南部のサセックス州。物騒な見た目のランドローバーへかつて与えられたミッションを、オフロードコースで擬似的に体験する。 43 BR 70という英国陸軍ナンバーで登録された、このクルマの正式名称は、ランドローバー・シリーズ1 4x4 ゼネラルサービス SASローバー Mk3。半世紀以上前に作られたクラシックだが、今見ても戦闘能力は高そうだ。 1950年代半ばに陸軍の特殊部隊へ8台が納入された、特別なランドローバー・シリーズ1のプロトタイプに当たる。現存は2台のみで、もう1台はランドローバーへ特化した博物館、ダンスフォールド・コレクションに所蔵されている。
SAS部隊が多目的車へ求めた仕様
こんな多目的車を欲したのは、英国陸軍だけではなかった。1952年には、ベルギーでミネルバ・シリーズ1 4x4ブラインド・パラシュート偵察車が作られている。こちらも特殊作戦部隊での利用を目的に製造され、旧ベルギー領のコンゴに配備された。 厳しい情勢の中で、ミネルバ 4x4ブラインドも多くが失われた。今回の例は心のこもったレストアを経て、往年の姿が見事に保たれている。不思議なほど、ランドローバーと姿が似ているのには理由がある。 この2台は1950年代からしばらく、両国の軍事作戦で重要な役割を果たした。特にSASローバー Mk3は、特殊空挺部隊(SAS)の活動に欠かせない存在だったといえる。 第二次大戦時、敵陣へ近いエリアで活動する特殊部隊に所属していたデイビッド・スターリング中尉の部隊は、重装備化されたジープ15台を調達。イタリア戦線などへ配備され、優れた戦績を残した。1944年には、SAS旅団(部隊)と呼ばれるようになった。 大戦が集結し、短い平穏を経て、再び新しいSAS部隊が編成。ジープやオースチン・チャンプ、部隊で改造されたランドローバーなどが登用され、朝鮮戦争やマレーシアのマラヤ危機で活躍した。 その経験から、SAS部隊は独自に多目的車へ求める仕様を開発。1955年10月27日に、ランドローバー・シリーズ1をベースにした車両10台の製作が、正式に決定した。