【米倉涼子の映画レビュー】理不尽な女性差別をミュージカルの力で描く『カラーパープル』
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ブロードウェイでロングラン上演されていたミュージカル『カラーパープル』の映画版を鑑賞しました。 ブロードウェイで観劇もしましたが、映像だからこそより主人公の痛みが伝わるシーンもあり、時代背景や物語を知っていたのに何度も心が揺さぶられました。 舞台になっているのは、20世紀初頭のジョージア州。 黒人の姉妹であるセリーとネティは、父親からのひどい暴力を受けながら暮らしています。虐待の末、セリーは2度も妊娠、出産、里子に出されるという扱いを受けていました。 やがて年の離れた男性と結婚させられ、その家でもまるで召使いのような扱いを受けるセリー。 父から逃れてきたネティとの再会によって芽生えた希望は、ネティが追い出されたことによって再び打ち砕かれてしまいます。 ネティが出し続けた手紙も、セリーには届かないまま。 暴力におびえる日々のなか、義理の息子の恋人やブルースシンガーの女性との出会いによって、セリーにも変化が訪れるのです。 こうして物語を思い出しているだけでも、あまりの理不尽さに胸が痛くなり、怒りが湧いてきます。 今では考えられないほど男尊女卑が色濃い時代だったとは言え、女性がひとりで暴力に耐え、希望を見出せないなかで何とか毎日を生き抜いていく。 愛する妹との繋がりさえも絶たれたセリーの絶望は、想像することも難しいくらいです。 「神様は乗り越えられない試練は与えない」という言葉もありますが、セリーの運命はあまりにも厳しいものだと思います。 自立心のある女性たちとの交流によって目覚め、人生を切り拓いて、未来に進んでいくセリー。彼女の辛さと喜びが、歌とダンスに乗せて描かれていきます。 この映画を観ながら、音楽やリズムで語るミュージカルというジャンルのパワーを感じました。 こんなにもひどい状況を描いているのに、エネルギッシュな音楽に心が躍り、前向きな力を与えてもらえる。過酷なストーリーを観客が受け止めて、消化できるのは、ミュージカルだからこそなのではないでしょうか。 『グレイテスト・ショーマン』や『シカゴ』にも同じような面があるのではないかと思います。 歯を食いしばって試練を乗り越えた人だけが見られる景色があって、未来がある。 そしてその先で白いパレットにどんな色を載せていくのかは、自分自身なんですよね。 『カラーパープル』は、とてつもない勇気をもらえる作品です。 もちろん程度の差はありますが、現代にも暴力や女性差別は残っています。大昔の話のようでいて、今にも繋がっている物語でもある。 この映画をZ世代の人たちが観たらどんな感想を抱くのか、聞いてみたいなと思いました。 取材・文/細谷美香 構成/片岡千晶(編集部)
米倉 涼子