笑福亭銀瓶「落語の笑いは普遍」人間の感情を伝えるもの 自身のルーツ「韓国落語」で新分野を開拓
落語家の笑福亭銀瓶がこのほど、大阪市内でよろず~ニュースのインタビューに応じた。10月4日は大阪・朝日生命ホールで桂米二、親交の深い俳優・風間杜夫との「三人会vol.2」、10月7日は東京・深川江戸資料館で風間をゲストに迎えて「銀瓶の深川でぎんぎん!」を開催する。1988年にタレント志望で笑福亭鶴瓶の門を叩いて36年。すっかり魅了された落語に対する気持ち、自身のルーツでもある韓国語落語、これからの目標などについて語った。 【写真】師匠の笑福亭鶴瓶 2005年からは「韓国落語」に取り組んでいる。在日韓国人3世で、入門して間もないころに鶴瓶から「韓国語ができるんか」と聞かれて「全然できません」と答えると、「ルーツの国の言葉だし、縁があるんだから勉強したらどうや」とアドバイスを受けた。当時はその気は全然なかったが、2004年の韓流ブームがきっかけで、改めて考えるようになった。 韓国のドラマ、映画、音楽を見たり、聞いたりしても、ほとんど理解できなかった。「寂しさと言ったらおかしいけど、言葉が分からへんというのがね。祖母の世代がしゃべっている言葉を、2世代下のボクが全く分からない。話せるようになりたいなと、その時に思いましたね」。テキストを買って、独学で勉強を始め、覚えていくと楽しくなっていった。 「日本の文化である落語でもって、韓国人が笑うっていうのは、ちょっと面白いかと」。落語家としての血も騒いだ。「日本語でないと成立しない落語もあるんですけど、英語でやろうが、イタリア語でやろうが、韓国語でやっても、通じるというのがあるんです。きっと英語落語をされている方もそうだと思います。もちろん、話芸で言葉を伝えますが、人間の〝感情〟を伝えるって思っているんです」。登場人物が織りなす物語で笑いが起きる…。国境はない。 韓国語落語では「動物園」「時うどん」「犬の目」などを披露。「要は状況で笑かす噺で、言葉遊びじゃないんです。日本語のダジャレで笑かすネタは無理ですよ。状況、状況で笑かしている」。客席の反応に手応えをつかんでいる。「だから、落語の笑いは普遍なんですよ。江戸時代や明治時代の噺でも、この2024年の人間が聞いても、面白いわけです」。国や時代が違っても、共感できる、通じるものはある。 韓国公演はコロナ禍の影響もあって2018年秋以降中断しているが、大阪では毎年、開催している。「日本語の字幕をつけて、繁昌亭とかでやっているんですけど。最近、ちょっと持ちネタが増えていないので、またいずれ新しいネタも増やして、これは死ぬまでやって」。ライフワークの一つになっている。 ただ、あくまでも中心は「古典落語」に置いている。「韓国語落語は僕にとっての一つの持ち球、球種の一つにしか過ぎないから、メインのストレートではないわけですね。やっぱり僕のストレート、直球は古典落語なわけで、だからこそ、古典落語をしっかりと磨かないと、変化球も生きてこないので」と好きな野球に例えた。古典落語を磨けば磨くほど、韓国語落語も輝きが増してくる。 趣味は筋トレ。時間があればジムに足を運ぶ。体力づくりはもちろん、ある目標を立てている。「僕のピークは80歳って、ずっと言っているんですよ。80歳になっても同じ声量、滑舌、ちゃんとお客さんにしっかり声を届けることができるように」。トレーニングで体幹を鍛えることによって、喉に頼らずに声を出せる。「喉を痛めたことはないです」。一日に昼3席、夜3席の落語を演じても、声をつぶさなかった。 ジム仲間のアドバイスも参考になるという。「梅田のジムに通っていたとき、筋肉ムキムキの新地の鮨屋の大将が『正しいフォームでやらなアカンよ』って。そうやると、ちゃんと筋肉がついてくるんですよ。落語もそうやけど、基本が大事やねんと」。別の仲間からはイメージトレーニングの大切さを教えられた。「例えば『大胸筋を鍛えるんやったら、脳で大胸筋を鍛えるんだ、大きくなれってイメージでしてやらないとアカン』と。落語の稽古も〝きょうはとにかく滑舌を意識して〟〝登場人物の感情をイメージして出そう〟とかね。噺の場面の映像を浮かべるだけでも稽古になるんです」。趣味が本業にも役立っている。 座右の銘は米国の著名な作家セス・ゴーディンの言葉〝恐いと感じるなら、それは挑戦する価値がある〟。「何かをするときに『わあ、これどうしよう』『できるかな』『大丈夫かな』と不安を感じるからこそ、挑戦した方がいいんですよ」。80歳でのピークを目指して、チャレンジ精神を忘れずに、自分の信じる道を突き進む。 ◆笑福亭銀瓶(しょうふくてい・ぎんぺい、本名・松本鐘一=まつもと・しょういち)1967年10月15日生まれ、56歳。神戸市出身。国立明石工業高等専門学校卒。1988年に笑福亭鶴瓶に入門。関西を中心に落語だけでなく、テレビやラジオと精力的に活動中。著書に自身の半生をつづった「師弟~笑福亭鶴瓶からもらった言葉」など。 (よろず~ニュース・中江 寿)
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