犯罪からの更生支援「保護司」の現状、殺害事件で「人材確保に影響も」 熊本の場合は
日テレNEWS NNN
先月、滋賀県大津市で保護司の男性が殺害された事件。男性が犯罪からの更生支援を担当していた男が逮捕されました。犯罪や非行をした人の社会復帰を支援する保護司は、どのような業務をしているのか、そして事件をどう受け止めているのか、熊本県内の状況を取材しました。 県内に住む秋吉展明さん(77)。会社勤めをしていた50代のときに保護司を始め、退職後も続けています。これまで、暴行や窃盗、詐欺の罪を犯した人など、65人と関わってきました。 秋吉展明さん「刑務所、あるいは少年院から出てきたら、なかなかしゃべってくれないことが多い。好奇心があるものを拾い出しながら、心の隙間を探しながら、そこに入り込んで胸襟を開いてもらうというのが、我々の今やっている姿」 秋吉さんは、担当となった相手の独り言や小さな変化を見逃さないことが、信頼につながると考えています。 罪を犯し、刑務所や少年院から出た後に保護観察が必要な人の更生の支援をする「保護司」。担当するのは、近くに住む対象者です。月に2回ほど行う面接では、生活指導をするほか、悩みの相談を受けることもあります。 秋吉展明さん「対象者が非常に心配していることは『まず自分は仕事を早くしたい』と。飲み屋(居酒屋)で働きたいというから、車に乗せて、看板の募集を探したり(した)」 社会復帰に欠かせないことの一つが、就職です。再犯で刑務所に再び入所する人の、およそ7割は無職です。犯罪に手を染めないためにも、就労は欠かせないと、秋吉さんも考えます。 そんな中、先月…。滋賀県大津市の住宅で保護司が殺害される事件が起きました。逮捕されたのは、自宅で面接をしていた保護観察中の男。秋吉さんも普段、自宅で面接をしていますが、これまで暴力やトラブルは一切なかったと言います。 秋吉展明さん「非常に残念。各保護司も自宅で面接するのを、非常に拒否されているところもあると思う。小規模の事務所、公民館等で面接ができれば、また保護司の確保にしても大きなインパクトがあると思う」 県内でいま、保護観察が必要な人は315人います。一方、保護司として活動する人は956人で、法務省が定める定数に87人、届いていません。 さらに年代別で見ると、60代と70代が8割を占めています。高齢化による人手不足が懸念される中、新たな保護司は現職の人が地域の情報を得て、次の候補者を探しているのが現状です。 刑事法にも詳しい専門家は、報酬もなく、人の善意で成り立っている現在の制度は、限界を迎えていると言います。 熊本大学法学部・岡田行雄教授「保護司をメインにしているのは、おかしい。専門的な支援というのを、国が公費を使って、もっとやっていかないと、必ず保護司制度は無理が来る」 保護観察が必要な人の社会復帰を、専門知識を持って指導・監督する国家公務員の「保護観察官」は、県内にわずか14人しかいません。 保護観察対象者のサポートの多くは、ボランティアの保護司が担うことに…。岡田教授は、対象者との面接を主に保護観察官が担当することで、保護司の負担を減らせると指摘します。 また、面接を行う場所も自宅ではなく、公民館などの公共施設でできるようにすることが必要としています。 ただ、対象となる人が公共施設を出入りすることについては理解を得づらいため、地域全体で更生に理解を示すことも欠かせません。 岡田行雄教授「最初、怖いのは当たり前で、その偏見をちょっとずつ外していく。これが社会全般に求められている」 保護司をしている秋吉さん。保護観察という関係が終わった後、関係が全くなくなるわけではないと感じています。 秋吉展明さん「(保護観察の解除後も)道すがらに『こんにちは』や『頑張ってます』、子どもを抱きながら挨拶してくれたことなど。保護司冥利(みょうり)に尽きるんですね」 地域全体で、罪を犯した人の立ち直りを支えていく。再犯防止につながる第一歩です。