ジャイアンツ球団職員→バックパッカーを経て監督へ?! 埼玉に現れた創部8年目の新鋭校に躍進の予感
勝利にはこだわるが、育てるのは令和のスポーツマン
そんな話を象徴する出来事が、この夏の埼玉大会で対戦した川越南との一戦。試合は2対1で開智未来が勝利したわけだが、この勝利が開智未来にとって夏の大会初勝利。チームの歴史に残る一勝になった。 ただ、チームの掲げる目標が体現されたのは試合後。 川越南と球場を出るタイミングが重なったとき、当時の開智未来の3年生が川越南へ寄った。伊東監督は「何をする気だ」と内心はひやひやしたという。ただでさえ夏の大会で初勝利で「ドキドキしていた」と落ち着かない心境だったが、我慢して選手たちの行動を見守った。 そうすると、選手たちは開口一番に「今日はありがとう」と一言伝えたという。 「私たちはこれまで夏の大会で負け続けてきたので、悔しさをずっと味わってきた。敗者の気持ちを知っているから距離を詰めるタイミングも上手でしたね。 『良い試合だった』とか『良い投手だったよ』って話をして、集合写真まで撮影しちゃいましたけど、ああいうふうに試合が終われば、同じ野球界の仲間として仲良くなる。開智未来らしい行動で、すごく良い終わり方だったと思います」 当時、ベンチ入りを果たし、現在は主将である銭谷出海外野手も、その瞬間に立ち会っていた。「見ている側だったのですが」と前置きしたが、「勝敗に関係なく、高校野球という野球を通じて相手と繋がることが出来るのは良いことだと思いました」と、先輩たちの行動を通じてチームの目標を再確認したようだ。 野球選手という枠組みではなく、令和のアスリート、スポーツマンシップを育てている。そんなイメージを与えてくれる指導が、伊東監督なのだろう。 ただ「勝ちたいというのはかなりありますよ」と勝利には貪欲。甲子園出場を本気で目指している。それでも、「手段を選らばないわけではない」と話したうえで、こう話す。 「大谷翔平が50-50を達成して世界中が沸いているのって、誰からも愛されているから、ワクワクして活躍を見守るわけですよね。オリンピックだって、平和の祭典だっていうことで開催されている。そういう国境や人種を越えて、正々堂々と真剣勝負するアスリートの姿に、スポーツの持つ価値があると思うんです。 だから高校野球の中でも、うちのような末端のチームの球児たちがまずできることはそういうところだと思うんです。それぞれの立場で、今できることをやればいいので、うちは掲げている目標を忘れずに活動する中で、大会でも結果を残したいと思っています」 創部して8年目で初となる夏の大会での勝利。さらにこの秋は新人戦で2連勝を飾り、予選ではシード校として出場。残念ながら県大会とはならなかったが、一歩ずつ階段を上がってきた。 近い将来、県内屈指の実力校、そしていつの日か優勝候補の肩書を背負う日を期待せずにはいられなかった。