【こんな時代だからこそ見たい映画】ひと夏の思い出から浮かび上がる父娘の愛情
子から親となったり、新たに別の家族の一員になったりと、家族の中での自分の立ち位置は、変わっていくものだ。当事者になって初めて理解できることもあれば、時代の変化により新しい家族の形が生まれることも。しかしいつの時代もそこにあるのは、愛による強い絆だ。今回は、娘から見た父の姿を描いた作品をピックアップした。一年の節目に改めて家族の絆を感じられる作品を鑑賞して心を温め、家族への愛、家族からもらった愛を再確認してみてはいかがだろう 【写真】家族の絆を紡ぐ映画3選
父娘の儚いひと夏の思い出から愛を見つけ出す──『aftersun/アフターサン』
11歳のソフィと離れて暮らす31歳の父親カラムは、一緒に夏休みを過ごすため、トルコのリゾートを二人で訪れる。眩しい太陽の下、カラムが持ってきたビデオカメラでお互いを撮影しながら、二人ははしゃいだり、時に口喧嘩をしたりしながら濃密なひと夏を過ごした。20年後、当時の父と同じ年齢になったソフィは、懐かしい映像の中に大好きだった父との記憶を手繰り寄せ、当時は知らなかった彼の一面に気づく。 監督・脚本を務めたのは、長編デビューとなるシャーロット・ウェルズ。ソフィは新人のフランキー・コリオ、カラムをポール・メスカルが演じ、本作で第95回アカデミー賞®主演男優賞にノミネートされた。
本作は心温まる家族の話ではない。しかし、愛について描かれていることは間違いない。ソフィーの視点では、毎日が文字通り“夏休み”で楽しくキラキラしているが、父・カラムは、まるで毎日が夏休み最後の日のような寂しさをもっているように感じられる。ティーンへと成長していくソフィーと11歳の娘と離れて暮らす父親のカラム。親密でありながらどこか距離があり、現実の記憶とビデオ映像の記録といったさまざまな対比が、ストーリー上でも画面上でも見事なバランスで描かれ、本作が長編デビューという監督のシャーロット・ウェルズの手腕の高さに驚かされる。 余白の多い作品ゆえ、父と娘の夏休みの旅に想いを馳せることもできるし、一つ一つのシーンに意味があるかもしれないと深く考察することもできるが、ソフィーはカラムの全てを“お見通し”だったのではないだろうか。空を見ながら不意に「空を見ると、離れていてもパパと同じ太陽の下にいると思えてうれしい」と言ったり、誕生日をサプライズでお祝いしてくれたり、子供というのは親にとってその存在だけで愛なのだと気付かされる。私は、自分の親孝行は足りないのではないかと焦る気持ちが常にあるが、自分が愛されてきたのと同じくらい自分も親を愛してきたはずだと本作を観て思うことができた。特別なことをしなくとも、お互いを想い合うだけで愛を伝えられるのが家族なのだ。ソフィの無邪気な問いが救いとなる。「パパはママと別れたのになぜ電話を切るとき愛していると言うの」。それに対しカラムはこう答えるのだ。「だって家族だから」。 監督のシャーロット・ウェルズは、英国アカデミー賞で新人監督賞を受賞。長編作品賞にもノミネートされ、他のアワードでも多くの賞を受賞した注目の新人監督だ。
『aftersun/アフターサン』 Blu-ray & DVD 2024年1月10日発売 Blu-ray:5,500円(税込)/ DVD:4,400円(税込) 発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング U-NEXTでもデジタル配信中 BY KANA ENDO