「もう一度、上告審で問いたい」 福島・猪苗代ボート事故、逆転無罪判決に遺族ぼう然
「原判決を破棄し、被告人は無罪とする」。福島県会津若松市の猪苗代湖で2020年9月、航行するプレジャーボートで巻き込み、3人を死傷させたとして業務上過失致死傷罪に問われた佐藤剛被告(47)の控訴審判決で、渡辺英敬裁判長は後回しにした主文でこう述べた。過失を認定できないとし、刑事裁判の大原則「疑わしきは罰せず」の理論を踏襲した。遺族は代理人弁護士を通じ、「判決は到底納得できない」とのコメントを出した。 死亡した豊田瑛大(えいた)さん=当時(8)=の遺族は被害者参加制度を利用し、直接裁判の行方を見守ってきた。佐藤被告に無罪が言い渡されると母親は一点を見つめたまま動かず、父親はかけていた眼鏡を机にたたき付け、天井を見上げた。 控訴審では代理人を通じて「4年間瑛大や被告のことが頭を離れず、瑛大との思い出は振り返られていない」と意見陳述もした。判決後、代理人弁護士を通じて出された遺族のコメントでは「生命を奪われて一生、背負う重大な傷害を負わされたのに、無罪とはこの国の司法制度が本当に機能しているのかもう一度問いたいので、上告審での審理を強く求めます」とつづった。
被告側「県警の捜査ずさん」
渡辺裁判長は冒頭、「理由から先に述べます」とし、約80分にわたり過失が認定できない理由を説明した。佐藤被告はこの日、上下黒のスーツで出廷。裁判長の方に体を向け、目線を落としながら理由の要旨を聞いていた。無罪が言い渡された際も表情を変える様子はなかった。 閉廷後、被告側代理人の吉野弦太弁護士は報道陣の取材に応じ、「科学的根拠や事実認定に基づいたわれわれの多くの主張が認められた。本来一審で認められるべきだった」と述べた。 また吉野弁護士は「県警の捜査はずさんで不合理な証拠を作出した」とし、一審の裁判官らに対しては「正義を発見する意欲が感じられない刑事司法にがくぜんとしている」とのコメントを発表。佐藤被告は「本日、無罪の判決をいただきました。私は、当時、十分な針路の安全確認を行っていました。このたびの控訴審判決は、その点を確かな証拠に基づいてお認めくださったものと理解しています」との談話を出した。
福島民友新聞社