ウクライナ、クルスク州の支配地域2倍に拡大へ布石 川の主要な橋すべて破壊
セイム川はロシア西部クルスク州を西へ流れる川だ。クルスク州の780平方kmほどの地域はこの川とウクライナとの国境に挟まれている。 今月6日、6個前後の旅団と複数の独立大隊、支援部隊から成る精強なウクライナ軍部隊がクルスク州に侵攻してからほどなくして、ウクライナ軍の陸軍や空軍はセイム川に架かる橋を狙い始め、これまでに3本を破壊した。 侵攻部隊が要地のスジャ町をはじめクルスク州の780平方kmほどの地域を占領するなか、ウクライナ側がその西方の、セイム川と国境に挟まれた地域の孤立化を図っているのは明らかだ。 理由も同じく明らかだ。ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)は18日の作戦状況評価で「セイム川に架かる橋に対する攻撃と、この川の西岸への前方部隊の進撃は【略】、ウクライナ国防軍の目的がセイム川以南のクルスク州一帯の掌握にあることを示唆している」と述べている。 ロシア側はそれを防ごうと躍起になっており、ウクライナ側が橋を破壊するのと同じくらいのペースで新しい橋の設置を進めている。しかし、これら仮設の浮橋(ふきょう、ポンツーン橋)は常設の橋以上に脆弱だ。 セイム川の常設の橋は16日に初めて落とされた。スジャから西へ42kmほどのグルシュコボ町でセイム川に架かるコンクリート橋が、ウクライナ軍のロケット弾攻撃で破壊された。米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)が使われたと伝えられる。 翌17日、ウクライナ空軍はグルシュコボの西11kmほどのズバンノエ村でセイム川に架かる橋を攻撃した。さらに19日、ズバンノエの西に位置するカリージュ村の橋も破壊された。 ロシア軍の工兵部隊の対応は素早かった。16日にグルシュコボ近くで浮橋を架け、17日までにグルシュコボとズバンノエの間の箇所にもう1本架けた。 浮橋は恒久的な橋ほど耐久性も輸送力もないが、ほかの渡河手段が水陸両用車ぐらいしかない場合は実際に役立つ。 問題は、軽くて薄い浮橋はコンクリート橋よりも破壊されやすいことだ。ウクライナ軍が4日で常設の橋を3本破壊できるほどの監視・攻撃手段をこの方面に集めているのであれば、同じ地域に現れる仮設の橋を破壊できない理由はないだろう。 実際、ウクライナ側はロシア側が設けた浮橋の一本をすでに攻撃したようだ。米航空宇宙局(NASA)の熱検知衛星のデータに基づく「資源管理システムのための火災情報(FIRMS)」によると、浮橋が架けられた地点で19日に火災があった形跡がある。 現在の侵攻地域に隣接するかなりの広さの一帯を孤立させるのに、ウクライナ側が常設・仮設の橋をあと何本破壊すればよいのかは不明だ。 しかし、状況はかなり進展している可能性が高い。商業衛星画像を見る限り、ウクライナ軍が16~19日に落とした3本の橋が、この地域のセイム川に架かっていた主要な橋のすべてだったようだ。ロシア軍は現在、セイム川を渡るのに浮橋に全面的に頼らざるを得なくなっている可能性もある。
David Axe