《連載:叫び 茨城・いじめ現場から》(2) 広がるうわさ㊦ 個別学習、涙の卒業 「苦しむ人支えたい」
いじめ被害を受けて転校を余儀なくされた中学2年の香澄さん=仮名。「一から頑張ろう」。新しい学校で、新しい仲間と楽しく過ごそうとする希望は、程なくして打ち砕かれる。 「いじめていたらしい。だから転校した」 転校から約半年後、根も葉もないうわさが流れ始めた。複数の学校から生徒が集まる学習塾を通して広まったらしい。「やっと変われると思ったのに」。心機一転を図ろうとした香澄さんは、再び学校に通えなくなった。 ▽2回目の申請 父親は学校側に抗議。いじめ被害を訴える調査申立書を再び提出することになった。 事態を把握した学校側は、いじめ収束に動き、生徒指導と併せた聞き取り調査の実施に乗り出す。一部の生徒は香澄さんに「信じてるよ」と声をかけてくれた。それでも「私のせい。転校してきてごめん」。気持ちが前を向かず、香澄さんは自分を責めた。 級友の温かい言葉で学校に通えるようになったが、以前の学校でいじめられた過去が心を襲い、教室に入れなくなった。 学校側と協議し、他の生徒がいない教室を使ったマンツーマン指導の個別学習が始まった。不安との闘いはその後も続いたが、次第に落ち着きを取り戻すと、卒業が近づく頃には「帰りの会」にも出席できるようになった。 ▽「おめでとう」 2023年3月。中学校の卒業式が終わり校舎が閑散とした夕方、香澄さんは父親と2人で学校を訪れた。卒業証書を手渡したのは個別学習に付き添い続けた教頭。「卒業おめでとう」。祝いの言葉に涙が止まらなかった。 卒業から約5カ月後、2度目の調査報告書が父親に届いた。「心身への被害は大きかったといえる」。調査報告書にはそう記載され、いじめの重大事態に認定された。 娘へのいじめ発覚後、NPOや弁護士、議員などの元に足を運び続けた父親は「必死だった。学校側にはモンスターペアレントと思われたかもしれない」と振り返る。感情的な物言いにならないよう、さまざまな人に助言を求めてきた。 なりふり構わず娘のために奔走した約2年間。痛感するのは再発防止の大切さだ。「同じようなことが起きない体制を本気でつくってほしい」。その声に切実さがにじむ。 ▽尽きない感謝 「もう後ろを振り返りたくない。前へ向かいたい」 香澄さんは現在、県外の高校に通う。進学後に始めたというアルバイト先では、何げない会話で笑い合える友人もできた。 関係各所を駆け回った父親への感謝は尽きない。自分が稼いだアルバイト代で父親を旅行に連れて行くのが現在の目標の一つだ。 苦しんだ思いが消えたわけではない。それでも、いじめに苦しむ同世代の相談にも乗る。「同じような経験をした人をできるだけ支えたい」。そう語る瞳に、新たな決意が浮かんだ。
茨城新聞社