戦後世代 マンガが伝える戦争とは
終戦から68年が経ち、安倍総理をはじめ、日本の人口の8割近くが戦後生まれとなりました。戦時中、戦地に赴いた方や戦争を体験した方々は高齢になり、当時を伝えることのできる人が少なくなってきています。そんな中、毎年、夏になると歴史を風化させないため、放送各局は戦争に関するドキュメンタリー番組やドラマが制作され、新聞などでも特集が組まれています。 では、マンガが担うべき役割とは、どんなものになるでしょう? 『宇宙兄弟』、『ドラゴン桜』などの編集を担当し、作家エージェント会社「コルク」を設立した佐渡島庸平さんに、話を聞きました。 「ドキュメンタリーや映画など実写の映像は、見る人にとって目をそむけたくなる場面なども表現されることが少なくないでしょう。戦争を伝えようとするときに、悲惨な描写をさけることはできませんから。映像で丁寧に戦争を伝えようと努力すればするほど、戦争に興味がない人には、最初から避けられてしまう可能性が高まります。マンガは、もちろん絵のタッチにもよりますが、戦争をテーマにしていても、読者に映像よりは気軽に手に取ってもらえることができる。そういう特徴があるのではないでしょうか」 具体的な作品名として挙げられたのは、『cocoon』(作者:今日マチ子)と『夕凪の街 桜の国』(こうの史代)の2作品。「『cocoon』も『夕凪―』も優しいタッチの絵なので、手に取ることの抵抗感は少ないと思います。しかし、書かれている内容は、戦争についてしっかりと表現されているので、この作品を通じて、戦争というものを知ってもらえるのでは」と佐渡島さん。 『cocoon』は太平洋戦争中の沖縄が舞台。ひめゆり部隊をモチーフにした作品です。『夕凪―』は、原爆投下後の広島を舞台に描かれた作品。ともに太平洋戦争において、多くの犠牲を出した悲劇的な地域を舞台として扱っています。戦争がテーマと聞くと、手に取らない人もいるかもしれませんが、対照的ともいえる優しい絵が読者の抵抗感を払しょくさせてくれます。 今日マチ子さん、こうの史代さんともに戦後生まれ。実際に戦争体験のない二人は、取材などを通じて、戦争を知り、それを描写しています。体験ではなく、伝え聞いたことを描いた作品のため、これまでの戦争作品とは違うスタイルとなったのかもしれません。 「今日さんやこうのさんの作品を読むと、情報としてではなく、感情で戦争を知ることとなります。そのような経験は、戦争を知らない世代の読者が戦争を理解するのを助けるのではないでしょうか」と佐渡島さん。 戦争を知らない世代が、歴史に関心を持つ第一歩の手助けをしてくれるのが、マンガではないでしょうか? ■佐渡島庸平(さどしま・ようへい) 2002年に講談社に入社し、週刊「モーニング」編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。