ひき逃げした息子をかばう“裕福な加害者家族”と、すべてを失った“貧しき被害者遺族”…フィリピン映画がとらえる「罪悪感」と「赦し」とは
見どころとしての伝統的パンパンガ料理の数々
このラストの祝宴こそが、「赦し」や「癒し」の儀式となること以外はネタバレになるので詳しくは触れないが、映画作品としての本作を魅力的にしている要素に、祝宴で供される伝統的パンパンガ料理というものがある。 そのメニューを言葉で伝えたところで、映像から感じられる美味しそうな料理の醍醐味を伝えられるわけではないのだが、記しておくと――鶏肉入り生姜スープ、サレン・マノック、鯰の揚げ物とパコサラダ、魚のローストにビーフステーキ、豚の内臓のシチュー、ポークの角煮、コラーゲンたっぷりの豚の頭・鼻・耳・レバーに脳みそも入れて細かく刻み、仕上げに刻んだ唐辛子・玉葱と塩コショウで和えたシング――といったメニュー。 ほかにも、刑務所に入る父親に対して、年老いたその母親が出すおやつのココナッツの焼き菓子、妻が客をもてなす水牛のプリン、レバーとパグをみじん切りにして炒めたプルトック、といった珍しいフィリピン料理の数々が、全編を通じて画面を彩っている。 傷ついた人の心を何よりも癒すのは、心のこもった美味しい料理に他ならない、というのが本作の一番伝えたいことなのかもしれない。 文/谷川建司