スーツのボタン、ベストな数とスタイルはどれ? ──テーラリングのエキスパートに訊く
シングルブレストかダブルブレストか。2つボタンか3つボタンか。どのスタイルを選ぶべきか、第一線で活躍するふたりのテーラーに尋ねた。 【写真8枚】ジェイ・Zからフィアット元会長ジャンニ・アニェッリまで。セレブのスーツスタイルをチェック! 個人の趣味が関わってくるあらゆる問題と同様、美しいスーツの定義はひとつではない。体型を引き立たせるためのショルダーラインや、ジャストなプロポーションにカットされたラペルの仕立て方など、多くの人がうなずくであろうルールはいくつかあるが、これらの無数にあるディテールを丹念に見れば見るほど、主観的な性格が強まっていく。例えば、フロントボタンのバリエーションだ。 複数のテーラーにスーツのベストなボタンの配列を尋ねれば、同じ数(またはそれ以上)の異なる、しかし決定的な答えが返ってくるだろう。あなたが遭遇する可能性の高いものを以下に紹介しよう。 ■シングルブレストの場合 ・2つボタン:近年では最も一般的なもので、スーツにもスポーツコートにも使える万能選手だ。 ・1つボタン:もともと馬上で着用するために開発されたものだが、現在では標準的な2つボタンのスーツに代わる、よりスタイリッシュなデザインを求める人たちの定番となっている。 ・3つボタン段返り:アイビーリーグのエリートやナポリのダンディに人気の2つボタンジャケットで、第3のボタンがラペルの返りの下に隠されている。 ・3つボタン:この異端児は、60年代のモッズスーツから90年代のボクシールックまで、20世紀に何度か流行り廃りを繰り返してきた。サルトリア的に言えば3つボタンは難易度が高く、上記のものに比べて汎用性は低い。 一方、ダブルブレストスーツのボタンには、ベン&ジェリーズのアイスクリームのごとく多くの種類があるが、名前はそれとは違いあまり独創的ではない。ダブルジャケットのスタイルは、以下のようにボタンの総数(通常は2、4、6)と留めることができるボタンの数(通常は1か2)を示す等式によって識別される。 ■ダブルブレストの場合 ・4x1:英国では「button one, show two」と呼ばれるスタイル。フロントの4つのボタンを逆台形に配置し、ボタンホールは1つ。 ・6x1:4x1に代わるダンディなスタイルで、上記の配列に加えて乳首の高さに一対のボタンがあしらわれている。 ・6x2:映画『キングスマン』でコリン・ファースが着用していたこのスタイルは、4x1と6x1の中間的な位置づけで、とても上品なものだ。 ・ほかにも4x2や2x1、また20世紀以前のミリタリーコスプレが好きでない限り、出会うことはないだろうものもある(8x4などいかがだろうか?)。 幸いなことに、ビスポークスーツをオーダーするにせよ、既製品から選ぶにせよ、たいていの体型に、たいていの場面で間違いなく似合う定番スタイルがいくつかある。 「私は3つボタン段返りが好みです」と話すのは、香港のテーラー、アーモリーの創業者マーク・チョーだ。「シングルブレストジャケットの場合、おそらくほとんどの人が知っているのは2つボタンだと思います。もう1つ余分なボタンがあることで、ラペルロールに余裕が生まれ、ボリュームが出てくるのが私は好きですね」 ダブルブレストの場合、チョーは6x1のエレガントさを評価する(これはラルフ・ローレンと同じ好みだ)が、ほとんどの人には6x2を勧めている。「ダブルブレストのスーツを初めて試すなら、(6x2)から始めるのがいいでしょう。ほかのものはかなり通好みで、既製品でいいものが見つかる可能性も低いですから」 ロンドンのサヴィルロウに目を向けると、H.ハンツマン&サンズのクリエイティブ・ディレクター兼裁断責任者であるキャンベル・キャリーは、より珍しい(そして英国らしい)1つボタンのジャケットを好んで着ている。 ハンツマンのハウススタイルは長めのラペルロールと斜めのポケットを備えた1つボタンのジャケットで、その仕立ては20世紀初頭に英国貴族のために同店が作っていた使用人のジャケットの流れを汲むものだとキャリーは説明する。可動域を広げるだけでなく、このスタイルはジャケットの最も細い部分に視線を集め、胴体を長く見せる効果がある(一般的に好ましいとされていることだ)。 ココ・シャネルからアラン・カミングまで、著名人の御用達テーラーでもあるハンツマンは、1つボタンに挑戦することを強く勧めている。「いったん慣れてしまえば、とても着やすいものです」と、キャリーは言う。 ハンツマンでは1つボタンスーツが主流かもしれないが、ツイードジャケットに関しては、キャリーは3つボタン段返りの汎用性を高く評価している。「普段は1つボタンとしても着られますが、肌寒くなってくる季節の変わり目には、襟を立ててすべてのボタンを留めることもできます。とても実用的です」 ダブルブレストに興味があっても、シングルブレストのスーツをいくつか持つようになるまでは控えることをキャリーは勧める。「ダブルブレストは、ワードローブの3番目か4番目のスーツにすべきです。なぜなら、ダブルブレストは常にボタンを留めて着なければならず、制約が多いからです」と、彼は言う。「一方、1つボタンや2つボタンのシングルブレストは、ボタンを留めても、ネクタイを着けずに前を開けても見栄えがいいですからね」 キャリーとチョーは、ふたりとも3つボタンのルックの素晴らしさを認めるが、着用の際には注意が必要だと警告する。「本当の3つボタンは60年代のイギリス特有のもので、最近ではかなり珍しい」と、チョーは言う。「私は好きですが、あまり注文はありません」。3つボタンのジャケットはラペルロール(いちばん上のボタンまでのラペルの返り)が短いので、結果として背が低く見えることがある、と彼は説明する。「円柱のように真っ直ぐなシェイプになります。一方、ロールが低い位置まである場合は、もう少しダイナミックで動きのある見た目になります」 どのボタンの配列がベストかについては意見が分かれるところだが、テーラーが5人いれば5人全員が、シングルブレストジャケットの一番下のボタンは絶対に閉めるなという意見で一致する。「格言風にまとめるなら、『必ず、ときどき、絶対に』ということが言えます」と、キャリーは言う。「真ん中のボタンは必ず留めるようにし、いちばん上のボタンはときどき留めてもいいが、いちばん下のボタンは絶対に留めてはなりません」 From GQ.COM By Jeremy Freed Translated and Adapted by Yuzuru Todayama