フレイル予防へ 胃腸・腸内細菌の研究に大きな期待 第4回ガットフレイル研究会報告
3000人「ガット」アンケートは165問で実施へ
日本ガットフレイル会議は3000人規模のアンケート調査を計画しています。目的はガットフレイルの実態をさぐることです。調査のチェックシートの作成を担当する京都府立医科大学准教授（医療フロンティア展開学・消化器内科学）の髙木智久さんは、準備作業が最終盤に入ったことを報告しました。 アンケートの設問は165問に決まりました。胃腸や排便の状況を評価する「出雲スケール」を主な指標としてとり入れています。さらに、食事、運動、睡眠といった生活習慣や、薬の服用や既往歴もたずねます。30分間程度で答えられるといい、希望者は腸内細菌の分析を無料で受けられます。そのデータもアンケートの回答と重ね合わせて解析されます。 髙木さんは「今回は、働いている人たちを3000人集めたい。元気そうな人が実は、フレイルやストレスのチェック項目とどこかでリンクしているというところをターゲットにしたい」と話し、賛助会員の企業から協力者を募る考えを示しました。 回答の解析は東海大学、愛知医科大学、順天堂大学などが行い、データはこの委員会で公開されます。 髙木さんは研究会後、10月頃にこのアンケートをスタートさせたい考えであることを朝日新聞Reライフプロジェクトの取材に対して明らかにしました。 このあとの企業プレゼンテーションでは、フジッコ株式会社の敷田加寿美さんが「『まるごとSOYカスピ海ヨーグルト』の開発」について」、太陽化学株式会社の安部綾さんが 「発酵性食物繊維グアーガム分解物と腸脳相関について」として、それぞれの商品の特性などを説明しました。
高齢患者に必ず質問 「食欲ありますか？」
特別講演で登壇した国立長寿医療研究センター理事長の荒井秀典さんは、「超高齢社会におけるフレイルの意義～消化管の役割を考える～」と題して、フレイルの定義や予防法について解説しました。 荒井さんによると、フレイルとは加齢によって心身が衰え、「ストレスに対して弱くなった状態」のことです。健常な状態から要介護状態になっていく負のプロセスの中間にあたり、適切な対応によって健常に戻る「可逆性」があります。 フレイルをかんたんに見分ける五つの質問（インデックス）があります。「6カ月間で2kg以上体重が減少したか」「歩く速度が遅くなったか」「ウォーキングなどの運動を1週間に1回以上しているか」「5分前のことが思い出せるか」「わけもなく疲労感を感じるか」という5項目です。このうち3項目以上に該当すると、フレイルのリスクが高くなります。荒井さんは「65歳以上で10％弱がフレイルとみられている」と述べました。 フレイルには身体面、精神面、社会面と三つの側面があり、互いに影響し合っています。そのなかで荒井さんは「食欲の大切さ」を訴えました。高齢になると、食欲が落ち、食事の量も減っていきます。その要因は多くあり、ホルモン、消化管機能の低下、味覚嗅覚の変化、薬の副作用、社会的な孤立、うつや認知症、様々な病気の影響が挙げられます。 「私は高齢者を診療する際、必ず『食欲はありますか』と質問する。ぜひ医師は高齢患者の食事の量やバランスに配慮してほしい」と荒井さん。 「オーラル（口腔）フレイル」についても説明しました。日本の歯科医師が中心になって提唱した概念です。歯の本数や、しっかり噛んで、のみこめるかどうかは栄養摂取に大きくかかわります。オーラルフレイルになると、フレイルの発症率が高まり、要介護に陥りやすく、死亡率も高くなることが報告されています。 また、サルコペニア（加齢による骨格筋肉量の減少および筋力の低下）も、フレイルと深く関係しています。「予防のために、たんぱく質とビタミンDを十分摂ることが重要。日本の高齢者の9割はビタミンDが不足している」と注意を呼びかけました。 荒井さんは、ガットフレイルについて「腸内細菌叢（そう）の乱れなどがガットフレイルにつながっていくことに大変注目している。その診断基準や予防法について、この研究会を中心とした発信に大きく期待している」と話しました。 （文と写真 ライター・橋本聡） ◇ 内藤 裕二（ないとう・ゆうじ）京都府立医科大学大学院教授（生体免疫栄養学） 1983年京都府立医科大学卒業、2001年米国ルイジアナ州立大学医学部客員教授，09年京都府立医科大学（消化器内科学）准教授などを経て21年から現職。日本酸化ストレス学会理事長、日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事、2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会アドバイザー。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、抗加齢学、腸内細菌叢。著書に「消化管（おなか）は泣いています」「人生を変える賢い腸のつくり方」など多数。 #
