『響け!ユーフォニアム』なぜ大人気シリーズに? 第3期を前に振り返りたい京アニの功績
武田綾乃の小説を原作に、TVシリーズや劇場版としてアニメ化されてきた『響け!ユーフォニアム』。その最新シリーズ『響け!ユーフォニアム3』が4月からNHKで放送スタートし、これに合わせてNHKで年末年始に劇場版4作品が放送される。吹奏楽部で音楽に青春をかける高校生たちを描いたストーリーからは、たとえ挫折しそうになっても前を向いて進み続ける大切さを教えられる。京都アニメーションが手がけたハイクオリティのアニメが、そんな高校生の青春や吹奏楽といったものをリアルに活写する。4月からの新シリーズ放送を前に、『響け!ユーフォニアム』シリーズの魅力を振り返る。 【写真】「私、北宇治が好き」黄前久美子を写した『響け!ユーフォニアム』3期ビジュアル ■ドラマの完成度の高さが感情を揺さぶる 京都府宇治市にある北宇治高校に進学した黄前久美子は、小学生の頃から吹奏楽を続けてきたこともあって、流されるように吹奏楽部に入った。その頃の北宇治吹奏楽部は弱小で、演奏もひどいものだったが、新しく吹奏楽部の顧問になった滝昇が、部員たちに全日本吹奏楽コンクールに出場したいか、それとも楽しく演奏したいかを質問。部員たちが全国出場を選んだところ、温厚そうな見かけに反して厳しい指摘を繰り出し、部員たちを鍛え上げて本気で全国出場を目指そうとする。 部員たちは体力アップのためのランニングにかり出され、長時間の練習も強いられるようになる。新入部員の中ではそれなりに上手い方だった久美子も滝が認めるレベルにはないことが分かって、レベルアップのための努力を求められる。少年漫画のスポーツものなら、大特訓でもする展開を、吹奏楽という題材で描いて「そういう世界があるのか」と目新しさを覚えさせる。 そうしたストーリーの中に友情や恋愛といった人間のドラマが絡んでくる。滝の指導を受けたいからと、吹奏楽の名門校への進学を蹴って北宇治に入ってきたトランペットの高坂麗奈のことを、久美子は最初苦手にしていた。どちらかといえば惰性で続けていた自分とは違い、人とは違った存在になりたいと訴える麗奈に臆していたが、上級生から疎まれても自分を曲げない麗奈に次第に惹かれていき、盟友ともいえる存在になっていく。 努力と友情を経て全国大会出場という勝利を目指すといった展開は、少年漫画がヒットの要素として掲げているもの。それが、吹奏楽を題材にしたストーリーにしっかりと含まれている。それだけでも面白そうな設定だが、『響け!ユーフォニアム』はその上に、久美子や麗奈や他の登場人物たちが直面する悩みや苦しみ、喜びといったものを描くことで受け手の感情を激しく揺さぶる。 久美子はうまく演奏できない場所を滝に指摘され、不甲斐なさを覚えてもっと上手くなりたいと泣き叫ぶ。麗奈は3年生の先輩に花形のソロパートを任せるべきだといった空気に苛まれる。久美子と同じユーフォニアムを吹いている3年生の田中あすかという先輩は、部活動よりも学業を優先してほしい母親からの抑圧に屈しそうになる。 3年間という限られた高校生活の中で繰り広げられる部活動ならではのドラマが、現在の学生たちの共感を誘い、かつて学生だった大人たちの郷愁にも働きかける。だから『響け!ユーフォニアム』は、広い世代から支持を集めるのだろう。そこに、映像作品としての完成度の高さが加わったことで、アニメシリーズとしての人気は不動のものとなった。 ■京都アニメーションの作画の“凄さ”とは アニメ制作に関しては、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『けいおん!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』といった作品で知られる京都アニメーションが持つ力が、隅々にまで行き渡って完璧なビジュアルを観せてくれた。池田晶子がデザインした登場人物たちの個性的で豊かな表情を持った造形があり、シリーズディレクターを務めた山田尚子の観る人を物語へと引き込み、登場人物たちの心情に気持ちを沿わせる演出もあって、高校生たちの生き生きとした日々を目の当たりにできるアニメとなった。 山田は、原作にあるエピソードを抜き出し、西屋太志によるTVシリーズとは違ったキャラクターデザインやトーンで映画化した『リズと青い鳥』で監督を務めた。シリーズの一部でありながら、単体の作品として評価され、第73回毎日映画コンクールで大藤信郎賞を受賞した『リズと青い鳥』は、久美子の先輩にあたる鎧塚みぞれと傘木希美の、信頼し合っているようですれ違ってもいる繊細な関係を、淡々と進む展開の中に描いている。 こうした登場人物たちの心情を、京都アニメーションのハイクオリティの作画が目に見えて心に訴えかけるものにした。TVシリーズ第1期『響け!ユーフォニアム』の第12話「わたしのユーフォニアム」や総集編『劇場版 響け!ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』に登場する、久美子が「上手くなりたい!」と泣き叫びながら宇治橋の上を走る場面は、久美子役の黒沢ともよによる渾身の演技もあって強く心に突き刺さった。この回で絵コンテと演出を務めた三好一郎こと木上益治のアニメーターとしての高い技量が発揮されたシーンだ。 人物だけではない。『響け!ユーフォニアム』にはトランペットやユーフォニアム、フルートといった様々な楽器が登場する。それらは複雑な形状をしている上に金属製で特殊な輝きを見せる。アニメではそうした楽器を形状も輝きも含めて、実物がそこにあるかのようなクオリティで作画して、演奏シーンに説得力を持たせた。楽器設定と楽器作監を務めた高橋博行の丁寧な作業のたまものだ。 音楽もこだわりぬかれている。『劇場版 響け!ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』や第2期の総集編『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディー~』で北宇治高校が演奏する「三日月の舞」も、久美子が2年生になった時のエピソードとなる『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』や『リズと青い鳥』に登場する「リズと青い鳥」も、既存の曲ではなく映画のために新たに作曲されたものだ。 それらのオリジナル楽曲や、「ライディーン」「宝島」といった吹奏楽アレンジの既存曲を実際に演奏するのは音楽大学の学生によって作られたアンサンブル。それも高校生が吹いていると感じられるような演奏にしてもらい、滝の指導によってうまくなっていく様子も演奏に反映して、耳からもリアリティを感じられるようにしている。ひとりひとりが楽器を演奏する作画の丁寧さや、手にしている楽器の作画の正確さとも相まって、アニメなのに本物の吹奏楽団による演奏を見せられている気分になる。『響け!ユーフォニアム』シリーズの大きな見せ場だ。 そしてファン待望の最終章となる『響け!ユーフォニアム3』には大きな期待が寄せられる。久美子たちが3年生になり、高校生として最後の全国出場を目指して吹奏楽に取り組むストーリーで、すでに発表にされている黒江真由という新しいキャラクターが久美子たちに絡んでくる。いったい何が起こるのか。そして久美子は全国に出場できるのか。気になるところだ。 年末年始のNHKでの劇場版4作品放送では、そうした興味を改めて湧き出させる意味でも、ストーリーの面白さであり映像の丁寧さであり音楽の繊細さをぜひ再確認してほしい。そこに込められた池田や木上、高橋、西屋といったクリエイターたちの偉績に触れ、それらが『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』を経て最終章にもしっかりと引き継がれていることを確信しながら、4月の新シリーズのスタートを待とう。
タニグチリウイチ