多様性が輝く(8月9日)
海岸防災林といえばクロマツなどの針葉樹が一般的だ。南相馬市では20種類以上の広葉樹を混ぜて植栽する防災林づくりが進む▼震災の津波犠牲者の鎮魂と復興を願う市民植樹祭で、これまで12カ所に合わせて22万本以上が植樹された。並ぶのはタブノキ、シラカシ、スダジイなど、もともと地元に自生する樹木だ。横浜国立大名誉教授の故宮脇昭さんが提唱する「鎮守の森」方式を取り入れた。長年、市内の植生調査を行ってきた植物生態学の世界的権威は説いた。高さが異なる木々が多層構造の緑の壁を成し、津波の威力を弱めると▼植物も人も個性はさまざま。だからこそ、豊かで懐の深い世界が生まれる。多様な性を認め合う動きが活発になっている。南相馬市は今年、性的マイノリティーや事実婚のカップルを認めるパートナーシップ宣誓制度を導入した。互いの人権を尊重する社会の実現を目指す行政の姿は心強い▼「鎮守の森」として植えられた木々は共生しながら大地に根を張る。3年ほど下草刈りなどをして管理すれば、その後は自然の力で豊かな森をつくる。浜の日差しを集める深緑はきょうもまぶしい。表情豊かに人が輝く古里の将来を思い描く。<2024・8・9>