「シェア型書店」は本を殺すのか?生かすのか? 仕掛け人が描く「本を読み継ぐ」循環サイクル
深刻な出版不況に突入した2000年代。ジャーナリストの故・佐野眞一は、2001年に刊行した『だれが「本」を殺すのか』(プレジデント社)で出版不況の構造的な問題について言及した。その後も、本を巡る状況は厳しくなる一方だ。それでもさまざまな形で本を届けようとする動きは生まれている。今回取材したのは、日本屈指の「本の街」でひときわ注目されているシェア型書店。その誕生に触れた前編に続き、後編では著者や出版業界に活力を取り戻すための挑戦を追う。(本文は敬称略) 【写真】シェア型書店PASSAGE1号店の店内 (浜田 敬子:ジャーナリスト) ■ 中古本が売れることの「光と影」 「本の街」東京・神保で人気を集めるシェア型書店「PASSAGE」。通常の書店と異なり、「棚主」と言われるオーナーが、店内の区画を借りてオススメの本を並べているスタイルが話題を呼んでいる。PASSAGEを運営しているのは、書評サイトALL REVIEWS社長の由井緑郎(41)。作家・鹿島茂の息子でもある。 由井がシェア型書店の運営に至った経緯は前回の記事で詳述しているが、もともと由井は、市場縮小に悩む本の業界をなんとかしたいと思ってきたわけではない。本に対して、それほどの思い入れもなかったという。 【前編から読む】 競争率40倍! キャンセル待ちに長蛇の列ができるシェア型書店はこうして生まれた 「ただせっかく生きているなら、何か世の中の役には立ちたい、良きことをしたいと思っています。自分ができることを考えたら、ALL REVIEWSやPASSAGEだったんです。 棚貸しの面白さは、(棚主の名前を見て)誰がどんな本を読んでいるのか知ることができる点。そして本が何度も読み継がれることで『本が死なずに生き続ける』喜び。唯一欠点があるとしたら、(シェア型書店で販売する本の大半は中古本なので)いくら売れても著者に還元されないことでした」
中古本が売れるほど新刊書が売れなくなることを考えると、中古本の流通の増大は、著者や出版社にとって死活問題で、急速に拡大したブックオフやAmazonマーケットプレイスの影響を見ればそれは明らかだ。この連載にも登場したブックコーディネーターの内沼晋太郎は、著書『本の逆襲』の中でこう述べている。 「古書店は昔からありますが、ブックオフをはじめとする新古書店と呼ばれる業態が大きな販売力を持つようになったこと、インターネットでの古本の売買、とくにAmazonマーケットプレイスが日本に上陸したことは、<出版社-取次-書店>のビジネスにも、旧来の古書店にも、直接的な打撃を与えています」 2009年には小学館、講談社、集英社など大手出版社がブックオフに出資し、「なぜ敵対する相手に?」と大きな話題になったが、その狙いは、ブックオフに対して著者への利益還元を求めることだったと報じられている。 当時のブックオフコーポレーション社長だった坂本孝もインタビューの中で、著者への利益還元を真剣に考えているとは述べているが、今に至るまで中古書市場での抜本的な改革は進んでいない。 ■ 中古本の売り上げから著者と出版社に還元したい PASSAGEは著者や出版社が直接棚主になり、自著や自社の本を売ることもできる。さらに由井は今、PASSAGE扱いの中古本に関しては、売り上げから少しでも著者と出版社に還元することも考えている。 「その仕組みを作ることができると、僕が生きた意味があるのかなと思うんです」 その仕組みを可能にするのがデジタルの力、PASSAGEのシステムだ。棚主は自宅で販売する本を専用サイトで登録すればバーコードシールが作成され、本を店に持ち込んだ時に出力して貼って並べる。何度も店を訪れなくとも、何がいつ売れたか販売状況や在庫を全てサイト上で確認できる。商品の流れがテクノロジーによって一元管理できれば、著者への還元もやりやすくなる。 このPASSAGEの売上管理システムを、由井はSOLIDAと名付けた。フランス語で連帯という意味だ。