自分の社会性を一回捨てないと、本音は出ない――脚本家・宮藤官九郎、“世間の評価を疑う”意識で執筆
■池袋、木更津、歌舞伎町…実在の街を舞台に「身近に感じてもらいたい」 これまでも、ゴールデンの連ドラデビュー作『池袋ウエストゲートパーク』(00年、TBS)、『木更津キャッツアイ』(02年、同)など、実在の街を舞台にした作品を書いてきたが、「池袋は大学生のとき通り道だったけど、あんまりよく知らない街だったんです。でも原作を読んで、こういう街にはこういう人たちが住んでるんだろうなって感じられたのが面白くて、それがあって『木更津キャッツアイ』もやったので、今回も“歌舞伎町の角を曲がったらあの病院があるんじゃないか”とか、“トー横に集まってる若者の中に、登場人物がいるんじゃないか”というように、身近に感じてもらえるといいなと思って考えました。自分の生活と関係ない物語だと思われたら、損だなと思っちゃうんで」と、視聴者と地続きになることを意識。 そのために、実際に現地を歩くなど取材して、自らが感じたことを脚本に生かしており、「昔から、なるべくウソの数を減らしたいというのがあって。実在の人の名前など固有名詞をセリフに入れたりするのは、僕らが普段している会話と同じような会話を劇中の人たちもしているのを見せたいというのがあります」と明かす。
90年代から一変した歌舞伎町「別の意味での治安が…」
歌舞伎町は、かつて演劇の公演で通い、住んでいる友人もいたことから、よく訪れていた地だ。 「あの頃は、(新宿)コマ劇場があって、シアターアプルもあって、ゴールデン街が近くにあって、何かを発散する場所でしたね。タイ人のディスコがあって、そこでかかってる音楽がめちゃくちゃカッコよかったので、そのテープを買ってバンドで演奏したこともあります。何歌ってるのか分からないんだけど(笑)、耳コピで覚えて。阿部(サダヲ)くんは一緒にやってたけど、まだグループ魂を始める前で、タイ人という設定でバンドやったことがあります。そのタイ人のディスコに、コロンビア人のディスコ、韓国人の飲み屋、台湾人の飲み屋を1日でハシゴするなんてこともやってました。昨日まで働いていた人が、強制送還されていなくなってるなんてこともありましたね」 そんな90年代を過ごしながら、今回改めて歌舞伎町の街を歩いてみると、その雰囲気は一変していた。 「昔は怖い人もいっぱいいたし、ボッタくられたこともあるんですけど、それに比べたら安全な街になったと思います。だから若い人が“ここに来たら友達ができる、居場所がある”と集まってくるのは分かるんですけど、別の意味での治安が悪くなっているのかな?という気もする。それと、ホストクラブがキャバクラより全然多くて、女性がお金を落としていく場所なんだな、とか。僕が20代の頃に行っていた歌舞伎町とは全然違うなという発見があったのですが、相変わらず外国の人は多いですね。それぞれのカルチャーがあって、この猥雑な感じが面白いなと思いました」 ■小池栄子&仲野太賀への厚い信頼 今回は小池栄子と仲野太賀がW主演。それぞれの魅力はどう感じているのか。 アメリカ国籍の元軍医ヨウコ・ニシ・フリーマンを演じる小池については、「やっぱり瞬発力と破壊力ですね。絶対に“できない”って言わないところがカッコいいなといつも思います。今回も、英語と岡山弁しかしゃべれなくて、しかもやったことのない手術シーンもしなきゃいけないので、普通嫌だと思うんですけど、やっぱり“できない”とは言わない。コント番組で鍛えられたからだと思うんですけど、本当に楽しそうに笑いながらお芝居をしている時に、すごく魅力的だなと前から思っていました」と印象を語る。 歌舞伎町で起こる物騒な事件にひるまないどころか、血が騒いでテンションが上がるような経歴として“元軍医”というキャラクターに面白さを感じており、「この役を演じられるのは小池さんくらいだろうなと思って、まだキャスティングが決まってない時から、小池さんの声でセリフを書いていたので、適任だと思います」と、厚い信頼を寄せている。