大きく姿を変え続ける池袋の街で70年以上もそこにあり続ける良心的酒場「ずぼら」
何かと行く機会が多い、新宿、渋谷、五反田、赤坂――。でも、何度となく通っているはずなのに、意外と行きつけの店がつくりにくい場所でもあります。 【画像で見る】池袋でぜひ立ち寄ってほしい名店「ずぼら」を見る(全11枚) そんななんだか落ち着かない駅にある「ちょうどいい」お店を、酒場ライターのパリッコさんに教えてもらう連載です。今回は、池袋に来たらぜひ立ち寄りたいお店を紹介します。
アートやカルチャーにふれたあとは
日本屈指の巨大ターミナル駅である池袋。近年は加速度的な再開発が進み、すっかり最先端のアート・カルチャーの街としてのイメージが定着している。特に、8つの劇場を備える新複合商業施設「ハレザ池袋」をはじめとし、次々と新しい劇場施設が誕生しているのは大きな特徴のひとつだ。 しかしながら、池袋の発展の歴史は古い。エリアごとにさまざまな表情を持ち、想像以上に奥深い魅力に満ちた街でもあるのだ。たとえば、戦後の闇市の面影を残す飲み屋横丁が、珍しくもまだ健在だったりする。 たっぷりとアートやカルチャーにふれたあとは、ちょっと気分を変えて、そんなディープなスポットで一杯。なんてどうだろう? なかでも代表的なのが、東口にある「美久仁小路」。1950年代、戦後の闇市を解体するため、そこにあったバラック造りの店たちを詰め込むような形で作られたという横丁だ。現在は、その面影は残しつつ、新しい店も多いが、東側の入り口にある老舗酒場「ずぼら」は、正真正銘、美久仁小路の歴史とともに営業を続けてきた店。 ビルの1階から3階までが店舗となっており、1階はカウンター、2階はテーブル席、そして3階は、ちょっと隠れ家風の座敷席となっている。ランチ営業もしているから、昼どきは近隣の勤め人たちで常に満席。夜は夜で、1日の疲れを癒す酒飲みたちで大にぎわい。大都会にありながら、昔ながらの家族経営の温かみがしっかりと残る、池袋の良心とも言える酒場なのだ。
市場仕入れの絶品魚介類
この日は運良く、3階の座敷席に座ることができた。大都会の真ん中にいるとは思えない落ち着いた空間で、ここでゆっくりと酒を飲める優雅さといったらない。 ではでは、今日もビールから始めよう。 この日のお通しはもみじおろしののった牛たたき。そう、ずぼらのお通しには「手抜き」という概念がなく、いつもお通しの段階でもう「来て良かった……」としみじみしてしまうのだった。 その日や季節ごとのおすすめはボードに手書きで。どれも魅力的だが、特に魚介類は、大将自らが常に市場に足を運び、確かな目利きで選んだものばかり。やっぱり刺身は食べておきたい。よし、今日はぜいたくに、おまかせで盛り合わせをお願いしよう。 艶めかしい光沢で脂ののりが一目瞭然のインドマグロを筆頭に、平目、真鯛、レモン仕立てのスズキ、甘海老、つぶ貝が美しく並ぶ。当然、どれを口に運んでもうっとり……王者の貫禄であるまぐろは言わずもがな、レモンの風味がしっかりと効いたスズキの爽やかさも印象的だ。