長屋門屋根を20年ぶり葺き替え 南房総の農家レストラン 後継経営者の稲葉さんが茅葺き職人と共に作業(千葉県)
南房総市山名の農家レストラン「百姓屋敷じろえむ」の長屋門で、20年ぶりに茅葺(かやぶ)きの葺き替えが行われている。レストランの後継経営者、稲葉陽さん(30)が、地域の茅葺き職人、岡巌さん(59)から伝統の技法を教わりながら、共に作業に取り組んでいる。作業期間は、今月いっぱいを予定している。 「じろえむ」の名は、江戸時代から続く農家であり、現在は平飼い養鶏を営む稲葉家の屋号。レストランでは、築300年以上の母屋で、自家配合飼料育ちの鶏の卵と、有機農業の野菜などを使った和食を提供している。 じろえむの長屋門は、1884(明治17)年建築。房総の長屋門について記録した本「房総の長屋門1695」(2022年、民家・長屋門研究会発行)によると、県内最大規模だという。 岡さんによると、一般的に半分以上替えることを葺き替えと呼び、一世代に1回行う。また、10年に1回のペースで新しい茅を加えて補修する「差し茅」などのメンテナンスが必要になる。
今回の作業では、長屋門の北側の3分の1の屋根を修繕。本格的な葺き替えとは異なり、なるべく古い茅を残しつつ、新しい茅を葺く形で行っている。 材料の茅は、同市丸山地区の業者から、長さ2・5メートルの束を約300束購入。これを80センチと、1メートルに加工。高さ約4メートルの屋根に上り、コケが生えて傷んでいる部分は取り除き、新しい茅を置く。茅を押さえつける「ホウ竹」を置いて縛り、層を作っていく。 岡さんによると、かつては村落に茅葺きの家が多くあり、茅葺き職人も多くいたという。岡さんは、20年前に行われたじろえむの長屋門での本格的な葺き替えに参加し、作業を学んだ。 今回は、伝統技術の継承も兼ね、稲葉さんに手ほどきしながら、共に作業に当たっている。「昔は茅葺きの家も多かったので、地域の共同作業で成り立っていたが、今はそうもいかない。業者に頼むと費用も高くなるし、家主が自ら覚えるのはいいこと」と岡さん。 岡さんの熟練の技に、尊敬のまなざしを向ける稲葉さん。「うまく葺くには頭を使う。箇所によって傷み具合が違うので、長さの違う茅をどう重ねるかを考えながらやっている。びしっときれいに重ねるには、経験と知識が必要」と技術習得に精を出している。 (前木深音)