「自己保身の選挙になっている」伊吹文明元衆院議長が見る「総裁選」の変遷… 政治家に求められる“法律以上”に大切なこと
「日本をどういう国家にしていくのか」
しかし伊吹さんは、近年行われた総裁選である候補(その後首相に就任)が決選投票で逆転勝利したことにも触れつつ、「選挙がポピュリズム(大衆からの人気を得ることを第一とする政治思想や活動)に左右されたり、選挙で勝つための“顔”を選ぶことではあってはならない」とくぎを刺す。 「(党員投票を行う)党員は、その人(候補者)の人柄や行動パターンを十分に見る機会はありません。露出度の高い人、ポピュリズム的に人気のある人が選ばれがちですが、(議員投票を行う)国会議員は(候補者の)人格、性格を身近で見ています」 ポピュリズムにおもねることのない総裁選。伊吹さんは立候補者にも強くそれを求めている。 「いかに国民の目先の人気を取ろうか、ということではなく、日本をどういう国家にしていくのか、ということを示してほしい」 その上で、伊吹さんが政策として求めることの第一は、「経済再生」「経済力の復活」だ。 「バブルが崩壊する前までの日本は世界で一目置かれていましたが、失われた30年の間に、世界第2位だった経済力、1ドル70円だった円の実力は、世界第4位、1ドル145円にまで落ちています。もう一度、『日本を抜きにしては世界のことは決められない』というような国力を回復させなければなりません」 総裁選後の衆議院での首相指名(※)により、岸田文雄首相の後を受け、次期首相に就任する新総裁。 「行政権の責任者として大切なことは、日本の現在の課題、それを克服する構想・ビジョン、その結果としての国家像と国民のあるべき姿を示し、外交内政の政策を具体的に提言し、国民の皆さんも一緒に頑張りましょうと呼びかける姿勢です」 ※衆院選後に初めて召集される国会で内閣が総辞職し、実施される首相を選ぶ選挙のこと。投票により、衆参両院で過半数の票を得た人が首相に指名される。
社会秩序守る「法律」以上に大切なこと
さらに、伊吹さんは新総裁に国民の意識を変えるリーダーシップも求めている。 「戦後の廃虚の中から立ち上がり、日本が世界有数の経済大国になった大きな理由は、みんなが助け合い、勤勉に働いたから。それをもう一度しっかり取り戻してもらえるよう国民意識を変えていってほしい。 そのためには、国民に憲法第12条(※)の精神を再確認してもらい、権利の主張には義務が伴うこと、自由は『公共の福祉』の下に保障されることを呼び掛け、一緒に努力しよう、との共感を得なければなりません」 ※憲法第12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」 派閥を通してパーティー収入を議員にキックバックしていた“裏金問題”で大きく信用を落とした自民党。その再生について、伊吹さんはこう語る。 「社会の秩序は、法律や刑罰で守られているように思えますが、もっと大切なことは、お互いに助け合っていこう、といったその民族、国民が持っている暗黙の約束事のようなもの。そういうことが一番大切です。ましてや国民から選ばれる政治家がそういう意識を持っていないようであれば、とても政治家は務まらない。(新総裁には)政治資金規正法に違反したら、直ちに党を離れてもらう、などの誓約書を公認候補に書かせることも必要でしょう」 国家のビジョンを示し、国民と共に歩む新総裁が誕生するか。多くの国民の目が注がれている。
榎園哲哉