新生・青森山田は「黒田スタイル」とはちょっと違う 象徴するゴールはカウンターから奪った3点目
ともすれば、相手の勢いに飲まれる可能性もあった。 全国高校サッカー選手権の決勝。後半開始早々、青森山田(青森県)は近江(滋賀県)の巧みな連係から左サイドを破られ、同点ゴールを許してしまう。メンタルが多分に左右するサッカーというスポーツにおいて、追いつかれた青森山田が消沈し、士気の高まる近江がこのまま勢いを加速させてもおかしくはなかった。 【写真】堀北真希、新垣結衣、川島海荷、川口春奈、広瀬すず、永野芽郁、森七菜…高校選手権「歴代応援マネージャー」 ところが、ここから見せた青森山田の"反発力"は、まさに圧巻のひと言だった。 「守備の圧力が弱かったので、前からもっとプレスに行こうと。まだ追いつかれただけだったし、絶対に自分たちが勝てるとわかっていたので、焦らずにいこうっていう話をしました」 キャプテンの山本虎(3年)はこともなげに振り返る。その言葉どおりに青森山田はここからギアを一段上げ、近江を圧倒することになるのだ。 前半は互角に見えた球際の争いをことごとく制し、切り替えの早さでも相手を凌駕。60分にはゴールキックを縦、縦とつないでエースの米谷壮史(3年)が得点ランクのトップに並ぶ今大会5点目となる勝ち越しゴールを奪うと、70分には相手のCKをはじき返して高速カウンターからダメ押しゴールをマークする。 その後も選手交代を織り交ぜながらプレー強度を担保し、今大会快進撃を見せていた近江を危なげなく寄りきった。まさに"横綱相撲"と言える戦いで、青森山田が2大会ぶり4度目の日本一に輝いた。 小憎らしいまでの強さを見せてのタイトル奪還である。 初戦の飯塚(福岡戦)戦こそ苦しんだものの、3回戦の広島国際学院(広島県)戦では大量7ゴールを奪っての圧勝。準々決勝では昌平(埼玉県)を4-0と一蹴し、市立船橋(千葉県)との準決勝では勝負強さを示し、PK戦をモノにした。そして迎えた決勝戦でも、青森山田は抜け目ない戦いを見せつけた。
【青森山田はそのまま崩れてもおかしくなかった】 前半から目についたのは、近江のプレス回避の巧みさだった。 プレスに動じずドリブルで1枚剥がす技術の高さは、鍛えられてきたチームの証(あかし)だろう。したがって青森山田にとってはプレスがハマらない時間帯が続いたが、それでも33分にチャンスを逃さず先制ゴールを奪うと、ボールを持たれながらも要所を締めた守備で相手にシュートを打たせなかった。 「(近江は)非常に高い技術を持っている選手たちが多いので、ボールホルダーをしっかりと自分たちの前に置いて守備をしようと。1枚剥がされたとしても、もう1枚という形で、次から次へとボールホルダーに対してアプローチできるように、中盤の枚数を意図的に増やしながら対応しました」 青森山田の正木昌宣監督が明かしたように、たとえ回避されても、すぐさま次の選手がアプローチを仕掛けていくプレスの連続性が、小気味よく映った近江の攻撃をゴールから遠ざけた。 ところが前半終了間際、この試合で初めて決定機を作られてしまう。そうした流れのなかで迎えた、後半立ち上がりの失点だった。 そのまま崩れてしまってもおかしくはなかったが、青森山田の選手たちは決して下を向くことはなかった。 「相手の分析もしましたけど、自分たちにベクトルを向けて、自分たちのやるべきサッカーをしたら、絶対に勝てると思っていました。失点したあとの戦い方は、すごくよかったと思います」 山本が言うように、青森山田はあくまで「自分たちの戦い」を貫いたのだ。球際で闘い、切り替えを速くし、プレーの強度を保ち続ける。時間が経つにつれて動きが衰えた近江に対し、青森山田の選手たちはまるで疲れを知らないかのように、ピッチで躍動し続けた。 「選手たちがこの大舞台でも緊張することなく、1年間積み上げてきたハードワークすること、そして『いい守備からいい攻撃』というところを90分間、徹底してくれたこと。これがすべてだと思っています」 試合後、涙をこらえきれなかった正木監督は、決勝の舞台でも通常モードでプレーした選手たちの奮闘を称えた。