「中学受験しないと東大には届かない」の誤解 国公立大の進学実績で私立中高一貫と遜色ない「都立高校」が増えている理由
ブームが過熱するなか、「中学受験しないと取り残されるのではないか」との不安を解消するのは、「公立中→高校受験」ルートについての正しい情報かもしれない。親の世代が高校受験した頃と、今の公立高校はずいぶん様変わりしている。都立高校を例に近年の大学進学実績をみると、私立中高一貫校に引けを取らない学校も多い。そうした都立高校の合格難易度は“レッドオーシャン”と化した「中学受験」と比べてどうなのか。シリーズ「“中学受験神話”に騙されるな」、フリーライターの清水典之氏が、受験情報の専門家への取材を基にレポートする。【第3回】
* * * 小学生の子をもつ親の世代には、通学生徒の居住地を限定する「学区制」の壁に阻まれて、行きたい公立高校に行けなかったという体験をした人もいるのではないか。 学区制だけでなく、東京都や愛知・岐阜・三重の東海3県、福井県には、かつて「学校群制度」(合格者を同じ「学校群」内で振り分ける制度)があり、進学する学校を選べない時代もあった。こうした制度を嫌った学力上位層が公立校を避けるようになり、私立中高一貫校への入学志望者が増えたとの指摘もある。 しかし、現在は少子化の影響で多くの公立高校が定員割れするようになり、学区を維持するのが困難になった地域が増えている。そのため、近年は全国の都道府県で学区制の緩和と高校の統廃合が進んだ。 東京都では、1981年に学校群制度が廃止され、2003年には都内全体が1学区になった。都内に居住していれば、約170校ある都立高校のどこでも受験・入学できる。これにより、かつての都立名門校に学力優秀層が再び集まるようになり、大学進学実績が伸び続けている。
学力上位の都立高校では国公立大の現役合格者が多数
高校受験の塾業界では、都立高校を入学難易度に応じてトップ校、2番手系、3番手系、中堅校、下位校に分類しているが、豊多摩や北園、武蔵野北、竹早、上野、文京、町田などの3番手系の都立高校でも、それぞれGMARCHには毎年数百人の合格者を出すようになった。さらに国公立大学の現役進学率でも、私立中高一貫校と都立の上位校はほぼ互角になっている。 『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』(Gakken)の著者で、Xアカウント「東京高校受験主義」で4万8000人のフォロワーをもつ塾講師の東田高志氏はこう語る。 「開成や聖光学院、灘などには及ばないものの、2024年度に都立日比谷は東大に60人(現役52人)の合格者を出し、合格者数ランキングで5位に入りました。東大受験は中高一貫の男子校が強く、トップの開成も男子校ですが、日比谷は共学です。そこで、卒業生からの聞き取り調査を基に日比谷の男子の卒業生数・合格者だけを抽出して現役合格率を推計したところ、4人に1人が東大に合格していた。開成の現役合格率は29.1%なので、男子に限れば、実は日比谷と開成の東大現役合格率はそれほど差がありません。 日比谷だけでなく、西や国立、戸山からも2桁の東大合格者が出ています。『中学受験しないと東大には届かない』といわれていた2000年前後の都立低迷期とは隔世の感があります」 東大に関しては互角とは言えないものの、都立はかなり健闘しているという。東大以外の国公立大はどうか。 「東京外国語大、東京農工大、東京都立大、東京海洋大、電気通信大、東京工業大、一橋大といった首都圏の国公立大学は、合格者数の数で見れば高校受験ルートが主流になりつつあります。 背景には、やはり学費の問題が考えられます。特に公立高校に通う理系志望の生徒の場合、私大理系学部への進学は学費の負担が重いため、国公立大への進学を望む子が多い。私の教え子の理系生も、多くは国公立大にこだわって受験勉強をしています。一方、中学受験ルートは富裕層が多いので、私立大の高い学費をあまり気にしません」(東田氏) 国公立大の一般受験は1次にあたる大学入学共通テストの科目数が多く、不得意科目の克服も視野に入れなければ合格は難しい。私立の中高一貫校に通う余裕のある家庭なら、一般に受験科目数が少なく、苦手な科目を勉強しなくてすむ私学に流れやすい傾向があるのかもしれない。 ただ、大学進学実績で都立高校が私立中高一貫校と互角に見えるのは、中学受験がブームとはいえ、公立中から高校受験ルートに進むケースが8割(首都圏)と圧倒的に人数が多いからで、その上位層が優秀なのは当然という見方もできる。人数が多いだけに競争が激しく、日比谷や西、国立などの都立トップ校に合格するのは、私立男子で言えば開成や麻布など“御三家”並みに難しいのではないかとも考えられるが、実際はそこまで難関とはいえない面もあるという。 取材・文/清水典之(フリーライター)
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