『フリースタイル日本統一』#16ーー「審査員殺しです」番組無敗男をいとうせいこうが絶賛
2023年10月より放送中の『フリースタイル日本統一』(テレビ朝日/ABEMA)。同番組では、全国16地区で活躍するラッパーが3名1組となって、それぞれの地元の威信を賭けてフリースタイルバトルに挑戦。勝利チームは敗退チームから好きなラッパー1名を吸収し、最終的に日本統一を果たすと、その暁として賞金100万円が贈られる。 【写真】TEAM兵庫Sirogaras対TEAM九州Rin音 準決勝に駒を進めたのは? 以下より、1月30日に公開された【#16】のハイライトを振り返っていく。細かなネタバレもあるためご注意いただきたい。 ・Sirogaras v.s. Rin音、番組初黒星はどちらに? 正念場を迎えた連勝ラッパーの一戦 前回の【#15】に引き続き、TEAM兵庫(CIMA×P-PONG×Sirogaras×FEIDA-WAN)とTEAM九州(Rin音×Amg×だーひー×Lildav)が対戦中。番組登場時から連戦連勝のSirogaras。そんな彼の前に立ち塞がったのは、同じく1回戦を“3タテ”で終えたRin音。ここまで“負けなし”の状況は互角。初黒星が付いてしまうのは、はたしてどちらになるのか。このバトルでは、Rin音の放ったラインに相手チームのCIMAが頷き、優しく拍手を送るなど、両チームのリスペクトを感じられる場面も。ハイライトは次の通りだ。 Sirogaras:誰に何と言おうとも俺はかます かます為だけにここに来てる Rin音:当たり前だぜ 俺だって自分しか信じられねぇ と思ってたら仲間がいた/前に進む為に仲間の命も必要だった/それを背負う為 いまはマイク握る Sirogaras:テメェの仲間を信用してぇなら 自分を一番信用してねぇとダメだな 俺は一番分かってる 背中の預け方を心得てる 頭のドゥーラグ 昨日 勝ったJAKEさんに貰ってる 全部背負ってる 兵庫とか今更 関係なく勝つ Rin音:俺は音楽を楽しむ それに費やしてる その上で自分を信じて 味方を信じてる 当たり前だろ Sirogaras:ここが正念場 あん時のスターになった少年だ/生きてる尾崎 豊 15じゃなくて5年経った20歳のラッパー 先攻はSirogarasで、ビートはGADORO「チャレンジャー feat.J-REXXX」に。会話のテーマとなったのは、自分自身と仲間への“信頼”。ハングリー精神を絶やさぬSirogarasに対して、音楽を楽しむことを第一とするRin音のスタンスは、いわゆる“音源”でもプロップスを築いてきた彼らしさにほかならない。 両者のよさをハッキリとぶつけられたが、判定はSirogarasが5-0で圧勝。審査員からの講評では、Sirogarasのラップは話の筋立てがとても美しく、〈生きてる尾崎豊 15じゃなくて5年経った20歳のラッパー〉などのラインに対してはとりわけ賞賛が。フリースタイルで生まれたものながら、このままパンチインのような扱いで、楽曲にそのまま落とし込んでも申し分ないクオリティに思える。筆者としては、2バース目の“背中の預け方”から、1回戦での敗者の想いまですべてを“背負ってる”まで、“背”というひとつの単語から、複数の表現に広がりを見せていた点に、各ラインの意味の掛かり方も含めて天晴れだと感じてしまった。 その後、TEAM九州からは大将・だーひーが登場するも、Rin音戦と同じくSirogarasが5-0で勝利を掴む。こちらは、Rin音とのピースフルなバトルから一転して、お互いが提示する話題と信念が一切交わらない。むしろ、ディスの応酬。だが、結果は前述の通り。Sirogarasは、審査員を務めるいとうせいこうから「審査員殺しですね、アイツは」とまでお手上げコメントを贈られるなど、またしても一人で全員を“やっちゃった”。チーム最年少ながら先輩全員を温存し、手土産にだーひーを吸収した上で、準決勝へと駒を進めた。 ・崇勲、Yella goatのバトルで“神奈川”を堪能「横浜 お洒落な奴らが揃ってる」 ベスト4が出揃い、いよいよ準決勝(五十万石の戦い)に突入。まずは、TEAM神奈川(FORK×句潤×SANTAWORLDVIEW×輪入道×崇勲)とTEAM北関東(DOTAMA×NAIKA MC×Yella goat×MC☆ニガリa.k.a赤い稲妻×Sitissy luvit)による、実質的な“東日本”エリアの対決が幕を開ける。対戦前のインタビューでは、SANTAWORLDVIEWの“DOTAMA嫌い”から、早々に一戦を交えたいという意欲を感じられたが、初戦でぶつかったのは、崇勲とYella goat。ビートはJUSWANNA「BLACK BOX」で、先攻はYella goatだ。 Yella goat:この脳天 直通 悪衝撃彼 真正面から受け止め 全てを安らかに 崇勲:速攻 真正面から一歩ずれる こんちわ 崇熟だね ハロー どきな田舎者 チーム神奈川だ 馬鹿野郎/横浜 お洒落な奴らが揃ってる お前らなんかに勝ち目なんて1ミリもないぞ Yella goat:おい 誰が誰に言ってんだ田舎者 この坊主顔 全員見ただろ? なにを売りにしてんだ どこに入ってもブレんじゃねぇぞ 崇勲:生まれは東京 目黒 育ちは埼玉の春日部 俺の愛する妻は横浜 何か文句あっかな? 馬鹿たれ 全てのルーツ 背負ってやって来てる 地元 確かに春日部 プレるブレない 売れる売れない 関係ない 俺 仁王立ち Yella goat:売れる売れない プレるブレない 違うギャグにすら夢は見れない/Like a 昇竜 片腕上げて wing like a JJJ 針に糸が付いてる よく、関東地方の都道府県のランクづけとして、東京、神奈川の順に頭ひとつ飛び抜け、埼玉と千葉がその後、そのほか3県がさらにその後を追いかけているという話があるが、その縮図が詰め込まれているかのようなバトル。それにしても、Yella goatはさすがに、呆気に取られていたように思える。崇勲の露骨な寝返りぶりが、すごい。 もちろん、たとえかつての対戦相手といえど、チームに吸収されたからには全力を発揮して戦わなければならない。崇勲はただ、その役務をまっとうしているだけ。といいつつ、横浜を中心として、洗練されたイメージのある神奈川。そんな憧れの街をレプリゼントするチームに吸収された好機には、“ここぞとばかり”にそれを堪能し、普段の田舎コンプレックスを思う存分、Yella goatにぶつけたようなバトル。崇勲の普段からの持ち味である正直さとナチュラルさも相まり、すがすがしさを感じてしまうが、決してブレているわけではない。本当に、色々な意味でまっすぐすぎるだけだ。結果は、崇勲が3-2で勝利を飾る。 崇勲はその後も2番手・Sitissy luvitを退け、決勝行きのチケットを堅実に手繰り寄せていく。さすが、チームの幸運の女神。崇勲の“ご利益劇”は、次回も継続するのだろうか。
一条皓太