ミスター・バルドラール加藤竜馬、現役最後の涙【#人生に刻むラストゲーム|Fリーグ】
ミスター・バルドラール、加藤竜馬が現役引退を決めた。13年間第一線で活躍し、昨年9月にはFリーグ通算300試合出場を達成。リーグを代表する、大ベテランだ。 けれども私は、彼のプレーをほとんどみたことがなかった。 だからこそ全日本選手権では、その姿を胸に刻むために、誰よりも加藤のことを目で追った。スライディングで相手のシュートを阻止する闘志も、監督と同じくらい身を乗り出してチームを鼓舞する姿も。私の目に飛び込んできた加藤は、どの瞬間も全力だった。 準決勝で名古屋に敗れた後、試合が終了した瞬間に思ったことを尋ねた。 「『これでもう、このピッチで戦えない』という思いとか、今までやってきたことが一気にあふれてきました」 その日彼を追い続けていた私が最後に見たものは、彼の目に浮かぶ涙だった。 取材・文=伊藤千梅
現役13年間のラストマッチ
それまで常に体を動かしていた加藤が、ついに椅子に座った。 負けたら終わりの全日本選手権大会。試合終盤、今シーズン5回目の対戦となる名古屋を相手に2点差をつけられていた浦安は、パワープレーに踏み切った。 チームメイトが果敢に攻撃を繰り返すなか、微動だにせずピッチを見つめる加藤の姿があった。 「その時間は、常にピッチの中を見ていました。みんなが点を取ってくれる可能性を信じていましたが……もしかしたら『終わっちゃうのか』と思う部分もありました」 揺れ動く心を抑え、加藤はピッチから目を離さずに得点の瞬間を待ち続けた。それでも、時間は過ぎるばかり。無情にも試合終了のブザーが鳴ると、加藤は顔を覆った。 試合を終えた選手、スタッフとハイタッチを交わす際、皆が荒っぽく加藤の頭を抱き寄せる。遠目からでも、加藤の涙が見えた。 「最後、チームを勝たせられる力があればよかったんですけど。そこまでの力は僕にはなかったので」 10番を背負ってきた加藤は、最後まで自分に厳しい言葉を投げかける。それでも試合終了後には、浦安のサポーターから、そして名古屋のサポーターからも“加藤竜馬”コールが送られ、その引退を惜しまれた。 結果的に加藤の引退試合となったが、彼にとってはこの日の試合が特別だったわけではない。いつもと変わらず臨んだ。でも、そのいつも通りは誰よりも熱かった。 「勝つために、チームのためにやるというのは、いつでも心がけてやっていました。来シーズンもクラブに残るチームメイトにも、ディフェンスでハードワークするところは、背中でしっかりと見せられたかなと思います」 チームの一員として、そしてチームを去るベテランとして、自分ができることを全うした。