映画『ヒットマン』主演のグレン・パウエルにインタビュー──監督リチャード・リンクレイターとの特別な関係とは?
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』などの恋愛三部作や、『スクール・オブ・ロック』などさまざまなジャンルの映画を監督してきたリチャード・リンクレイターと『恋するプリテンダー』、『ツイスターズ』に出演し、飛ぶ鳥を落とす勢いの俳優グレン・パウエルがタッグを組んだ『ヒットマン』が公開される。偽の殺し屋に扮し、おとり捜査官を副業としていた実在の人物にインスパイアされた本作について主演のグレン・パウエルに尋ねた。 【写真を見る】『ヒットマン』で最凶の殺し屋のフリを演じ分けたグレン・パウエルをチェックする
■ルースターかハングマンか 『トップガン マーヴェリック』でハングマンを演じて注目されたのは、2年前。だが、グレン・パウエルは、実は準主役のルースター役であの映画のオーディションを受けていた。ルースター役にマイルズ・テラーが決まったと聞かされた際は、あまりにショックが大きく、代わりにオファーされたハングマン役を受けるかどうか、2週間迷ったという。最終的に下した判断は大正解。おかげで今や彼はハリウッドの主役級スターになったのだ。 活躍するジャンルもさまざまで、今年春に日本公開された『恋するプリテンダー』はロマンチックコメディ、先月公開の『ツイスターズ』はパニックアドベンチャー超大作。そして13日公開の『ヒットマン』は、実話にもとづく犯罪コメディだ。しかも、『ヒットマン』では、リチャード・リンクレイター監督とともに脚本も執筆している。テキサス州オースティン出身のふたりの興味を引いたのは、何年も前に地元の雑誌「Texas Monthly」に掲載された記事だった。 ■『ヒットマン』製作のきっかけ ──元々実話となった記事をご存知だったんですよね? リック(・リンクレイター)にこの記事を持ち込むと、「僕はこの記事を君が13歳の時から知っているよ」と言われました(笑)。それ以来、時々その話について考えてきたそうです。こんなに面白い実在のキャラクターはいませんからね。過去にもブラッド・ピットをはじめ、いろいろな人たちが映画化を試みましたが、誰も正しいアプローチを見つけられないままでした。僕とリックの場合、パンデミックの最中にこれに取りかかったというのも、大きかったと思います。あの頃は、多くの人が住む場所を変えたり、新たな職を見つけなければならなくなったりして、自分のアイデンティティに疑問をもつようになっていました。そんな状況も、僕たちにインスピレーションを与えたのです。 ■アイデンティティを見つけていく映画『ヒットマン』 ヒットマンとは、雇われの殺し屋。実際にはそんな職業はないのだが、映画やテレビドラマによく出てくるため、多くの人はその存在を信じている。だから、ヒットマンに扮した主人公ゲイリー・ジョンソンに会うと、依頼人は疑うことなく相談を持ちかけるのだ。警察はその会話を盗聴しており、絶対的な証拠をつかむと逮捕する。 ──ゲイリーを演じるにあたってどんな準備をしたのでしょうか? 脚本を書くにあたり、僕たちはたっぷりリサーチをしました。映画には母を殺してほしいと依頼する子供や、現金でなくボートで支払いをしたいと言ってくる女性が登場しますが、それらも実際に起きたこと。もちろん僕たちは少しひねりも加えていますが、そんなことが本当にあったなんて、信じられませんよね。 ジョンソンの本業が心理学と哲学を教える大学教授で、彼の“副業”について誰も知らないというのも、依頼人ごとに違った扮装を考え、毎回異なる姿で登場するというのも、事実通りだ。 ──ヒットマンはまるで映画俳優のようにさまざまな人物になりきるわけですが、演じてみていかがでしたか? ヒットマンはポップカルチャーの中に存在してきたので、人はそれぞれに自分なりのイメージを持っています。実在のゲイリー・ジョンソンは、次に会う依頼人がどんなヒットマンをイメージしているのかを先読みして、その人物になりきったのです。依頼人が納得するようにね。その秘密のミーティングでは、依頼人もまた、本来の自分らしくは振るまっていません。誰かを殺してくれと頼むなんて、緊張しますからね。ブラインドデートみたいに、そこには居心地の悪さがあるのです。そういう微妙な空気を演じるのも楽しかったです。 ■主演を務めただけでなく脚本にも参加 映画の中で、ジョンソンは、夫の殺害を依頼してきた女性と恋仲になる。そこはフィクションながら、元の記事に書かれていたことを膨らませたものだ。 ──本作にゲイリーとマディソンが恋仲になるエピソードを付け加えたのはなぜでしょう? 実在のゲイリーは、その女性にこれ以上自分と関わるのはやめたほうがいいと説き伏せたそうです。彼女は良い人で、殺しなどにかかわるタイプではないと感じたから。そこから彼らには何らかのつながりができたらしいのですが、僕とリックは、その先を自分たちなりに追ってみようと思ったのです。この映画のゲイリーは、情熱を持って毎日を生きていません。彼は左脳だけで生きています。ですが、この女性に出会い、理屈に合わない、直感的な行動をするようになります。普段なら絶対にやらないようなことを。それがめちゃくちゃな状況を生み出すのですが、そこから彼は自分の生き方も見直していくようにもなるのです。 ■グレン・パウエルとリチャード・リンクレイターの特別な関係 グレン・パウエルとリンクレイター監督は、2006年の『ファーストフード・ネイション』で初めて仕事をした。その後、本作を含めると4本の作品をともにするのだが、2016年の『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』を振り返りリンクレイターは、「グレン・パウエルの役は小さな役でしたが、オーディションを受けた俳優はたくさんいましたし、その中でグレンを選んだというのは、やはり魅力があったからです。あの時の彼にも、ユーモアのセンスとカリスマはしっかりありました」と語った。役者として成熟し、良い友達でもあるパウエルとは、これからも組みたいとのこと。パウエルにしても、それは望むところだろう。 ──リチャード・リンクレイター監督とは公私ともに仲が良いとのことですが、あなたが思うリンクレイター監督について教えて下さい。 長いキャリアでさまざまなジャンルを手がけ、どれもすばらしい映画にした人は、めったにいません。彼はそれらのジャンルを独自な形でミックスして、ユニークなトーンを作っていくのです。リチャード・リンクレイターは特別な映画監督ですよ。 ハリウッドに新たな黄金コンビが誕生した。 『ヒットマン』 9月13日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー © 2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED 取材と文・猿渡由紀、編集・遠藤加奈(GQ)