ロールスロイス初のEV、「スペクター」は“呆気に取られる”静かさだった!!(加藤)
自動車ジャーナリストのレジェンド岡崎宏司氏が綴る、人気エッセイ。日本のモータリゼーションの黎明期から、現在まで縦横無尽に語り尽くします。 岡崎宏司の「クルマ備忘録」 エレガントでありながら、同時にスポーティな装いと強力な心臓を持つロールスロイス初のEV、「スペクター」。筆者がどうしても乗りたかったそのクルマは、執念とも言うべき静かさを備え、あらゆる面でマジックを感じさせる一台でした。
ロールスロイス初のEV、スペクターは「未体験ゾーンの塊!」だった
ロールスロイス初のEV、「スペクター」にはどうしても乗りたかった。 ロールスロイスが最重視する「静粛性」を、EVでどう躾けてくるのか。それを、自らの身体と感覚でしっかり実感したかったからだ。 そして実感したのは、まさに「驚きの!」「未体験ゾーンの!」静粛性だった。 「運転に必要な情報」、あるいは「走っている実感」をドライバーに持たせるための、極めて抑制された音(僕にはノイズではなくシグナルと感じられた)が伝えられるだけ。 すでに、少なからぬEVに乗ってきた。EVなら当然だが、ほとんどは「静かだなぁ!」と思う。でも、「呆気に取られる静かさ‼」に出会ったのはスペクターが初めてだ。 そう、スペクターの静粛性は、「EVだから静か」といった領域を大きく超えている。 高い剛性をもつアルミ製スペースフレームと、そこに敷き詰めた700kgのバッテリーの寄与もあるだろう。多くの遮音材も使われているだろう。 しかし、それよりなにより、、スペクターにかつて例のないレベルの静謐なキャビンをもたらしたのは、静粛性に対するロールスロイスの執念だろうと僕は思っている。
CD値0.25、、空力性能を徹底的に追ったことも、先例のない静粛性の理由になっている。今回は100km/hを少し超えたあたりまでしか速度は出していないが、風音を意識させられたことは皆無だった。 ボディと電子制御式サスペンションとの調和も徹底的に追い詰めたに違いない。スペクターの乗り心地もまた「未体験ゾーン」のものだった。 路面の凹凸が不整が、まるで厚い真綿にでも包まれたかのような「優しく丸い」感触で伝わってくる。「不思議な!」とでもいえばいいのか、あるいは「浮遊感覚!」とでもいえばいいのか、、、とにかく、そんな乗り心地なのだ。 試乗の間に感じた「ショックらしきもの」は1度だけ。あまり遭遇することのないレベルの、強い段差を通過した時だけだった。 ロールスロイスの資料では、この乗り心地を「マジックカーペットライド」と呼んでいるが、まさしく的を射た表現だと思う。 乗り味だけではない。走り味にもまた、「マジック」という表現を使いたくなる。 スペクターは430kWの最高出力と、900Nmの最大トルクを持ちあわせているが、「素晴らしく滑らかに優しく」走る。 アクセルを深く踏み込めば、3トンに近い巨体は、周囲の流れを一瞬にして置き去りにする。だが、その時驚くのは、置き去りにされた相手だけではない。 スペクターの同乗者もしかり。加速への驚きはもちろん、その中に織り込まれた上質な滑らかさにも「感嘆!」の声を上げるだろう。 強力な性能を持つスペクターだが、「ドライバーがその気にならない限り」、滑らかに優しく、ジェントルに走る。ここも見逃せないポイントだ。