三遊亭遊七さん、春風亭だいえいさん ごひいき願います!
デジタル時代だが、落語がブームです。講談・神田伯山や浪曲・玉川奈々福の活躍もあり演芸も元気がいい。チケット入手が困難な人気者も相当数います。この勢いに続けと、若手でも有望な芸人さんが多く登場してきました。彼らに注目しているひとり、落語・演芸を長く追い続ける演芸写真家・橘蓮二が、毎回オススメの「期待の新星たち」を撮り下ろし写真とともにご紹介いたします。 【全ての画像】三遊亭遊七、春風亭だいえいの写真ほか(全21枚)
「在り続けるということ」──三遊亭遊七
芯のあるしなやかな所作と聴き手の気持ちを優しく誘導する艶めく声音で描く空間には幾つもの色彩を感じる。その鮮やかで澄みきった色合いは、果てしない芸の道を偽りなく真っ直ぐに進んで行く嘘のない向上心が纏う色そのもの。大学在学中より劇団に所属し途中ストレートプレイからミュージカルへ移行しながら20代は演劇の世界に生きていた。 今思えば運命的とも言える落語へのめり込むきっかけは知人を通じて引き受けた歴史散策ガイドの仕事でのちょっとしたアクシデント。予約時の開花予想とは大幅にずれた花見ツアーのガイドで実際には殆ど咲いていない中でお客さまに楽しんでいただこうと土地や桜に纏わる落語をしゃべったことが始まりだった。不思議なほどスッと気持ちに馴染んだ落語の魅力にすっかり取り憑かれ、その後はさらに落語を深めようと教室に通い始め瞬く間に5年という月日が経っていた。そしていつしか芽生えたプロの落語家への思い断ちがたく、年齢制限ギリギリ(落語芸術協会は35歳)のタイミングで教室の講師を勤めていた三遊亭遊之介師匠に入門。2016年4月より楽屋入り、前座修業を重ね2020年5月二ツ目に昇進した。 二ツ目昇進後は落語ユニット「擊鱗」や芸術協会の総会で虚無僧の格好で演奏した余興から生まれた三人組の音楽パフォーマンスユニット「CommeSeau-コムソウ」など様々な形態での活動も自身の落語にフィードバックさせる努力を惜しまない。とりわけ遊七さんは自身の落語の現在地を知りどうアプローチしていくかという客観的な視点と事象や他者に対しての感度が非常に高い。才能豊かな同世代の仲間と定期的に結集することでお客さまがシャッフルされ刺激になることに加え、お互いの伸び方のバロメーターに照らし合わせ短時間で好不調に気付ける故に例え自分がスランプになっても修正しやすいと鋭い分析力をみせる。さらに目標とする“総合力の高い落語家”を目指し小唄、長唄、踊り、笛といった落語表現を高める全ての素養を身体に染み込ませるための精進も怠らない。踊りからは隅々まで行き届いた繊細な身のこなしを、唄と笛からは日々移り変わる声や音の微細な高低差の違いを感知する力を身に付けた。そこには昨日より今日、今日より明日、もっと上手くなりたいと願いながら高座に向き合う遊七さんの真摯な落語への想いが在ればこそ。 三遊亭遊七さんの高座は体現している。“なることに意味があるのではない、在り続けることこそ尊い”と。