需要急増のホテル業界で注目のローカル企業【坂本慎太郎の街歩き投資ラボ】
『週刊プレイボーイ』で連載中の「坂本慎太郎の街歩き投資ラボ」。株式評論家の坂本慎太郎とともに街を歩き、投資先選びのヒントを探してみよう。金のなる木はあなたのすぐ近くに生えている! 【図表】ABホテルの株価 今週の研究対象 ホテルの客室不足(ABホテル) ホテルの宿泊料金の値上がりが著しい。観光業の活性化で需要も多いことから、ホテル業界は今後も有望そうだ。この業界から、一風変わった戦略の会社を取り上げた! 助手 所長はもうゴールデンウイークの予定は決めました? 坂本 今年も仕事かな。どこに行っても人混みだろうし、ホテル代も高くなってきてるからね。 助手 確かに。大阪に行きたくて調べたら、今や普通のビジネスホテルでひとり1泊1万5000円超えですよ。 坂本 大阪は外国人観光客から人気があるから。昨年10月には外国人観光客の数がコロナ前を超えて、ホテルはどこも客室が不足気味。ビジネスホテルにも単価上昇の波が押し寄せてます。今後も円安が見込まれ、海外からの観光客は途切れないはず。客室単価の上昇は続きそうです。 助手 ホテルの運営企業は有望ってことですね。投資したいけど、割高な企業が多いなぁ。帝国ホテルのPERは35倍、ドーミーインの共立メンテナンスはPER31倍ですか。 坂本 有名ホテルの運営企業はもう手を出しづらいかもね。今なら、少しひねってABホテルが面白い。PERも12倍少々で高くはないし。 助手 「少しひねって」って? 坂本 同社の業績は製造業、とりわけ自動車産業の動向に左右されるから。全国34店舗中14店舗が愛知県内に集中している上、ほかの地域も工場が集まる場所に出店している。 助手 工場って不便な田舎に立ってるイメージです。泊まる人います? 坂本 製造業関係の出張者が泊まるんですよ。工場自体の関係者はもちろん、設備メーカーの従業員とか。製造業は現場に出向かないとできない作業があるから、出張需要は意外と多い。そして実は、製造業関連の出張をターゲットにすることで業績も安定するんです。 助手 製造業って景気に左右されて業績が安定しない印象ですよ。 坂本 工場は簡単には操業を停止できないんです。だから景気が悪かろうが最低限、メンテナンス用の出張需要はある。実際にコロナ禍では、普通のビジネスホテルの平均稼働率が40%を切って各社が赤字に転落する中、ABホテルの稼働率は69%を維持。黒字も確保しました。 助手 当時、自粛の嵐で出張も旅行も壊滅状態だったのにスゴいですね。 坂本 製造業はリモート勤務が無理だからね。稼働率以外に利益率の高さも特筆ものです。同社の経常利益率は30%台でホテル業界ではアタマひとつ抜けている。というのも、まず田舎の工場に近い土地を借りて出店することが多いから初期費用が安いんです。 助手 確かに安そう。 坂本 さらに、人件費を安く抑える工夫もスゴい。同社のホテル支配人は、業務委託の個人事業主カップルや夫婦が住み込みでやってるんです。 助手 業務委託? カップル? 坂本 そう。支配人募集に「男女ひと組で応募すること」って書いてあるんですよ。ホテルの仕事って朝から晩まで拘束されたり、突発的な業務が発生する。そういう業務は社員に残業代を払うより、住み込みの個人事業主に任せたほうが安定的に人手を確保できるし人件費も抑えられるわけ。しかも同社は、支配人に年間約1200万円を支払い「そこから自分たちの報酬とバイトスタッフの給料を工面してね」という方式だから、さらに人件費を節約できる。 助手 個人事業主をフル活用してますね。投資家としては魅力的です。 坂本 うまいと思います。自動車産業のコロナからの復活で出張需要の増加が見込めるし、最近は観光客向けの立地にも出店して、これも追い風。安心して投資できると思います。 今週の実験結果 製造業関連の出張者をメイン顧客にしたユニークなビジネスモデルに注目! 構成/西田哲郎 撮影/榊 智朗