【相撲編集部が選ぶ春場所11日目の一番】止まらぬ尊富士、琴ノ若も破る! 2差で追うのは大の里のみに
あの大鵬が記録した新入幕の初日からの最多連勝記録(15日制以降)に並んだ
尊富士(寄り切り)琴ノ若 「今場所最強の刺客」も、見事に突破した。尊富士が大関琴ノ若も倒してついに11連勝だ。 【相撲編集部が選ぶ春場所11日目の一番】翠富士は若元春に押し倒され、ついに土。独走態勢崩れる この日も尊富士は低くて鋭い立ち合い。右から琴ノ若の左をおっつけていった。しかしさすがに琴ノ若は今までの相手のように立ち合いから一方的に攻め込まれることはなかった。右で尊富士の左をはね上げて押し返す。いったん体を押し上げられそうになった尊富士は、今場所初めてイナシを見せる展開になった。 だがしかし、それでも尊富士は速く、低く、そして抜群のタイミングで動いた。琴ノ若がちょっと様子を見るようにモロ手で突いた直後をとらえて下に入ると、右を差し、左も浅くのぞかせて、右から掬うように一気に出た。琴ノ若の小手投げにも全くぐらつくことなく、そのまま寄り切った。 「流れがよかったと思います。自分では真っ向勝負ではかなわないと思っていた。とにかく自分を信じていった」と尊富士。立ち合いの当たりを止められても、やはり十分な強さとうまさがあることを証明してみせた一番だった。 これで初日から11連勝。昭和35年(1960年)1月場所にあの大鵬が記録した新入幕の初日からの最多連勝記録(15日制以降)に並んだ。「全然そういう記録は気にしないが、偉大な方の記録に並んだのはうれしいと思います」と尊富士(尊富士にとって大鵬のイメージはといえば「王鵬関のおじいちゃん」ということのようだが……)。 新記録に挑むあす12日目は、大関豊昇龍との対戦が組まれた。もうここからは、ストップを掛けられる可能性の高い相手から順に当たることになると思われるので、尊富士にとっては毎日が「残り最大の試練」になると考えられるが、この対戦もまた興味深い。 ここまで相手を上回る低さ、速さで勝ちを伸ばしてきた尊富士だが、動きの速さ、反応の良さでは豊昇龍も負けていない。果たしてどちらが動き勝つか。もし尊富士が動き勝つようなら、また一つ、“幕内最強”への大きな勲章を手にするといえる。ただ、豊昇龍は琴ノ若とは違って、立ち合いにズレたり跳んだりということもあり得る相手。尊富士としては、そういう相手にもこれまで通りの立ち合いを貫けるか、というところもポイントとなってくるだろう。 豊昇龍は、尊富士との対戦にも「楽しみに待っている」と不敵なコメント。昨年7月場所には新入幕の伯桜鵬の挑戦を退けた実績もあり、似たような精神状態は体験済み。尊富士とは同学年になるが、こういう状況に対しては意地を見せるタイプの力士だけに燃えているだろう。琴ノ若とは違った意味で、壁になれる要素のある相手ではある。 この日、大の里は貴景勝を押し出して2敗をキープ。この日敗れた琴ノ若を含め、4人が3敗で続く形となったが、残り4日で3差の逆転はかなり可能性が低いので、優勝争いはほぼ尊富士と大の里に絞られたと言っていい。我々がちょんまげ力士か、ザンバラ髪力士の幕内優勝を見ることになるのはほぼ確定的だ。 大の里も「残りはみんな格上の相手になってくるので、思い切って立ち合いから攻めるだけ」と気合を入れるが、直接対決が終わっているだけに、尊富士の優位は動かない。もし尊富士が新入幕優勝を遂げることになれば、大正3年(1914年)5月場所の両国以来110年ぶりのこと。いずれにしても、歴史に残る場所になることは、間違いない。 文=藤本泰祐
相撲編集部