山積みのマイナス材料を乗り越えるために必要な「逆襲の一手」を総力検証! 開戦2年、ウクライナにまだ「勝利への道」はあるか?
「ウクライナはどうすれば勝てるか」が盛んに議論されていた1年前とは大きく変わり、今や「今年は我慢の一年」「領土の一部を諦めての停戦もやむなし」といった厳しい声も聞こえる。しかし、このままでは侵略国ロシアが笑う最悪の結末が待つ。勝利のための「逆襲の一手」を徹底的に検証した! 【地図】ウクライナ軍「逆襲の一手」作戦案ほか * * * ■大きくずれてしまった軍の事情と政治の事情 2022年2月24日にロシア軍(以下、露軍)がウクライナ侵攻を開始してから間もなく2年。最初の1年は目まぐるしく戦況が動き、ウクライナ軍(以下、ウ軍)の大攻勢による領土奪還の動きもあったが、次の1年はウクライナにとって「停滞」だったと言わざるをえない。 その象徴が、ウ軍が昨年6月に開始した反転攻勢作戦の失敗だ。元米陸軍大尉で、現在はミリタリーアドバイザーとして頻繁に渡欧している飯柴智亮(いいしば・ともあき)氏が解説する。 「大きな理由のひとつは、欧米からの武器支援のタイミングがバラバラだったことです。あれだけ兵器や弾薬を供給されてなぜ勝てないのかと思う人もいるかもしれませんが、軍隊は統率されたオーケストラのような組織で、最も重要なのはC2(指揮統制)です。 各楽器を『はい、バイオリン』『はい、ビオラ』などとバラバラに提供されても、交響曲を演奏できないのと同じことです。しかも、その状況にウクライナの汚職体質が輪をかけてしまった部分もあります」 また、戦術面でもかみ合わなかった。元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見 龍(ふたみ・りゅう)氏(元陸将補)は次のように分析する。 「昨夏の反転攻勢に際し、米軍はザポリージャ戦線から南進してアゾフ海に達する一点突破の攻撃軸に兵力を集中する作戦を提案しました。 しかし、露軍が侵攻開始時に多方面から同時攻撃を仕掛けたのを見てもわかるように、旧ソ連の軍事文化には兵力を分散させる傾向がある。ウ軍にもそれが残っているのか、東部を含む数ヵ所で反撃を開始した結果、本命の攻勢も失敗に終わってしまいました」 そして、ついにウクライナ内部の不協和音も表面化した。ゼレンスキー大統領が2月8日、軍トップのザルジニー総司令官を解任したのだ(後任はシルスキー陸軍大将)。かつて航空自衛隊那覇基地302飛行隊隊長を務めた杉山政樹氏(元空将補)はこう語る。 「軍人の立場から見れば、現状ではまず『負けないこと』が大事で、無謀な作戦で兵を死なせたくもない。長期的に勝機をうかがうべく、今できることはやっているという認識でしょう。 しかし、全領土の奪還という目標を掲げるゼレンスキー大統領は、政治家として後戻りできない。欧米の支援疲れも感じているし、早く成果を出せないことに焦っている。両者の確執は必然といえます」 そんな中、国際社会でも逆風が吹き始めた。最大の支援国アメリカで、今秋の大統領選挙に向け、トランプ前大統領がウクライナ支援に極めて消極的な発言を繰り返しているのだ。国際政治アナリストの菅原 出(すがわら・いずる)氏はこう語る。 「アメリカ以外のNATO(北大西洋条約機構)諸国では、イギリスがウクライナと2国間安全保障協定に署名したのに続き、フランスも同様の協定を結ぶ予定で、この流れが他国にも波及していくかもしれません。 しかし肝心のアメリカでは、バイデン政権が今後10年ウクライナを継続的に支援する予算案を連邦議会にかけているものの、トランプはこれを通過させないよう働きかけており、今のところ成立は見込めません。 つまり現状では、ロシアのプーチン大統領は、ゆっくり待っていれば勝手に有利な状況になっていくと考えていると思われます」 ウクライナが直面している苦境は、1年前とは比較にならないほど厳しい。勝利への道をつなぐためには、米大統領選がある11月までに、目に見える「結果」を出し、国内の士気をまとめ、諸外国の支援熱を取り戻す必要があるのだ。