恋愛初期のときめきを何度も体感できる恋愛映画「不死身ラヴァーズ」
心を揺さぶる濃密な青春映画かつ恋愛映画
両想いになった途端に消えるというのは、失踪したり消息不明になったわけではなく、文字どおり目の前から忽然と消えてしまう。一緒に会ったこともあるはずの幼馴染の親友・田中(青木柚)やバイト先の優しい先輩・花森(前田敦子)ら周囲の人に聞いても、誰も彼のことを知らず、元からじゅんが存在していなかったかのようになる。ではSFやファンタジーなのかというと、それは最後に明かされることになる。 年齢や立場は異なっても「甲野じゅん」である男性と何度も出会う主人公・りのは、その度に理屈抜きで彼を好きになる。好きな理由を聞かれても「好きなものは好きなの」「人を好きになる時の引力ってすごいんだよ!」と暴走気味に突っ走る。両想いになると彼が消えてしまうとしても、全力で想いを伝えずにはいられず、好きになってもらうために努力する。しかし、その気のなかった相手を振り向かせることに成功しても、それは終わりでもあるというジレンマが、とても切ない。 人を好きになった時の衝動的なときめきだけを何度も追い続けるような本作は、ポジティブな恋の力に満ちていて、好きな想いを相手に伝えることの大切さやその瞬間のドキドキを思い出させてくれる。りのは、全力で相手に毎日「大好き」と伝え続けるが、両想いになるとその先がない。それでも先のことなど考えずに好きだと伝えずにはいられない主人公の恋のパワーには圧倒されると共に不思議な力をもらえる。普通は好きな想いを相手に伝えること自体が難しいものだが、伝えなければ何も始まらないし、付き合うことができてもそれを続けていくことの方が難しい場合もある。劇中でりのは親友の田中から「恋に恋しているだけだろう」とも言われるが、好きになった時の気持ちをずっと忘れずに持ち続けることができたら、それほど幸せなことはないし、そうありたいとも思わせてくれる。 前半はとにかく疾走するラブストーリーという感じで怒涛の展開を見せ、まさに原作のパワフルさそのものだが、大学生のじゅんと出会ってからのオリジナルな展開は、不器用な若い男女の恋をじっくりと見せていく。大学で出会ったじゅんは、りのが毎日好きだと伝えても消えないでいてくれるが、消えてしまった時よりも切ない展開ともなっていく。「くれなずめ」(21)「ちょっと思い出しただけ」(22)などの松居大悟監督ならではの共感したり懐かしさを感じる人もいれば、切なさや痛みも含め、胸の奥底にしまっていたり忘れかけていた様々な想いをくすぐられるような、心を揺さぶる濃密な青春映画かつ恋愛映画となっている。