仲野太賀&岡田将生、『虎に翼』で2人の夫が繋いだバトン “ありのままを認める”象徴に
ついに最終週を迎えたNHK連続テレビ小説『虎に翼』。本作でも、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)を支えた2人の夫は、ヒロインの人生にそれぞれ異なる彩りを加えた。それは、仲野太賀と岡田将生という異なる魅力を持つ俳優が演じたからこそと言えるだろう。 【写真】今までにないひょうきんな様子の航一(岡田将生)に驚く寅子(伊藤沙莉) 1人目の夫・佐田優三(仲野太賀)は、猪爪家で暮らす書生だった。寅子が後の恩師である穂高重親(小林薫)と出会ったのも、優三に弁当を届けたのがきっかけだ。寅子は法律を学ぶなかでの発見や違和感を、優三と会話することで消化して自分のなかに取り込んでいく。同じ法律を学ぶものとして、横に並んで議論をしてくれる優三の存在に寅子は救われていた。 弁護士になった寅子は、社会的な立場を手に入れるため、優三と戦略的な結婚を果たすが、このことをきっかけに寅子は優三への罪悪感に苛まれることになる。そんな寅子に出征前の優三がかけた言葉は、寅子の存在そのものへの承認。どんな選択をしてもいい、君の好きなように、後悔せずに心から人生をやり切ってほしいという愛情がこもった言葉は、戦後憲法14条とともに寅子の元へ帰ってくる。優三の言葉があったから、寅子は裁判官への道を踏み出すことができたのだ。 第9週で、優三が戦病死していたことが明らかになったが、十数年の時を経て第19週でも寅子に優三の手紙が届けられる。そこにあったのは、未来を生きる寅子の幸せを祈る言葉。この手紙をきっかけに、寅子は星航一(岡田将生)との関係を前に進めることを決意する。 優三は、寅子にとって“変化を促す”存在だったと言えるだろう。法律を学ぶ時、裁判官になろうと決意する時、新たな恋へと進む時に、そのままの寅子でいてほしいと伝え続けた優三の言葉が、寅子が前を向くきっかけとなり、変化を促したのだ。ありのままでいてほしいという優三から寅子への最大の愛、存在の承認こそが、寅子という人物が前に進むためのエンジンだった。これが『虎に翼』が提示するテーマだとも言えるだろう。仲野太賀が持つ朗らかな雰囲気、シワのよった目尻が愛らしい表情が、優三が寅子に注ぐ無償の愛に説得力を生み出していた。 一方で、2人目の夫・星航一は「なるほど」と相手の考えを受け入れた上で、一線を引く考えを持ち、はじめは寅子と相容れない考えを持つ人物だった。これは、航一の総力戦研究所にいた過去、戦争を阻止できなかった後悔があったから。悲しみを抱えた状態で寅子と出会った航一は、寅子によって徐々に“変化していった”存在と言えるだろう。 寅子と航一は、互いの弱さを打ち明けあったことで互いに惹かれていき、納得のいく関係性を模索しながら、やがて事実婚をする。航一が子供たちと向き合ってこなかったが故の確執も、寅子との出会いで変化した航一だったからこそ解決することができた。航一は自身の感情の蓋をしないこと、相手の悲しみや苦悩にも寄り添うことを寅子から学んでいったのだ。 相手と自分の感情に向き合えるようになった航一は、寅子と暮らすなかで視野を広げ、一歩踏み込んだコミュニケーションができるようになっていく。大学院を辞めたいと打ち明けた優未(川床明日香)に対して退学を止めようとした航一だったが、後に朋一(井上祐貴)が裁判官を辞めたいと打ち明けたときには優しく肩を支えて朋一をねぎらった。また、尊属殺人重罰規定を最高裁で扱うかどうかについて「机上の理想論だ」と桂場(松山ケンイチ)に言われた際には、寅子を彷彿とさせる激昂した姿を見せた。子供が歩みたい未来を閉ざさずに寄り添うこと、感情を露わにしてでも人権蹂躙を許さないこと、これらも寅子から受けた影響の成果だろう。 真意の見えづらかった航一が、徐々に人間らしさを取り戻し、感情を発露させる様子はとても鮮やかで、航一に影響を与えるに至った寅子の成長も感じられた。感情の乏しい役柄も、人間らしく葛藤する役柄も得意な岡田将生が演じたからこそと言えるだろう。 優三が促した寅子の変化と成長は、寅子を介して航一へと繋がった。2人の夫は主人公のパートナーとして、“ありのままに生きることを認め合う”という作品の軸を表現するために、寅子を介してバトンを渡しあった存在なのだ。
古澤椋子