『薬屋のひとりごと』壬氏×猫猫の“曖昧さ”がたまらない “溺愛もの”は一大トレンドに
アニメ『薬屋のひとりごと』の第12話は、タイトル「宦官と妓女」が示す通り、壬氏と猫猫の間の絶妙な距離感が視聴者の心を捉える素晴らしいエピソードとなった。これまでの放送では、猫猫がその卓越した薬屋としてのスキルを駆使して事件を解決するサスペンス要素が強調されていたが、今回のエピソードは一味違う。終盤の壬氏と猫猫のまだ曖昧で、もどかしい感情の交錯は、1クールの最終回にふさわしいクライマックスを飾った。 【写真】化粧をして華やかになった猫猫の姿 『薬屋のひとりごと』は、時に陰湿な女性たちの争いや嫌がらせが繰り広げられる「後宮もの」の要素を含んでいながらも、その枠を超えて独自の形で物語を展開してきた。その根底で光っているのは、なろう系小説を原作とするアニメならではのテンポの良い構成と、ヒロインがヒーローに深く愛されるという「溺愛もの」としての側面だ。端的にいえば、壬氏と猫猫の関係性がとにかく“推せる”のである。 『薬屋のひとりごと』では、後宮で強大な権力を持つ宦官の壬氏が、猫猫に対して特別な感情を抱いていることが描かれている。その美しい容姿で宮中の女性から想いを向けられている壬氏だが、彼は猫猫以外の女性にはさほど興味を示さない。一方で猫猫も、後宮ではよくある“帝の取り合い”のドロドロとした愛憎劇とはほど遠く、宮中の男性に興味がない。むしろ面倒ごとに巻き込まれないよう、彼らとの距離を保ちたがっているほど。 とはいえ、猫猫自身も壬氏に対してはほんの少しずつ心を開き始めている節もあり、この付かず離れずの距離が視聴者にはたまらない。この主人公が高位の人物に愛される「溺愛もの」としての展開は、近年のアニメで注目を集めているトレンドでもある。 もちろん作品ごとに個性はあれど「不遇な状況にあるヒロインが高位の人物に愛される」のが典型的な展開だ。このジャンルの王道作品ともいえる『私の幸せな結婚』では、継母と異母妹に虐げられて育った美世が、名家・久堂家の当主である清霞と政略結婚することになり、彼との関係を通じて成長していく。清霞の真っ直ぐな優しさによって美世が愛を知っていくあたたかいストーリーは、アニメ・実写ともに話題となった。 また、西洋風の世界観を持つ『魔法使いの嫁』では、15歳の少女チセがオークションで魔法使いエリアスに買われ、彼に寵愛されるというストーリーが展開される。これらの作品は、ヒロインが高位の人物に愛されるという共通のテーマを持ちつつ、『薬屋のひとりごと』とも重なるような、登場人物たちのもどかしい恋愛模様が視聴者の心を掴む。 一方、『薬屋のひとりごと』の猫猫とは趣向は異なるものの、同じように“変わり者のヒロイン”がヒーローから溺愛されるアニメが『虫かぶり姫』だ。 主人公は、侯爵令嬢で「本の虫」として知られるエリアーナ。彼女は幼い頃から本に夢中で、「虫かぶり姫」というあだ名を持っている。エリアーナは王宮書庫室への出入りを許されることを条件に、王子クリストファーと「名ばかりの婚約」をする……というように、こちらは薬ではなく“本”に魅せられたヒロインの物語。薬草オタクの猫猫然り、好きなものにのめり込むヒロインというのは、それだけでも魅力的に映るもの。王太子であるクリストファーと変わり者の姫の可愛らしい恋模様に、胸キュンする人が続出した。 最後に、最も『薬屋のひとりごと』に近い要素でのラブロマンスが期待できるのが、1月10日から放送が開始される『外科医エリーゼ』である。本作は、悪女皇后と呼ばれ火炙りの刑になり一生を終えたエリーゼが主人公。エリーゼは、前世での過ちを清算すべく2回目の人生は外科医として人のために活躍するが、事故で死んだ後、記憶を保持したまま元の世界に転生する。医療と王宮が絡む点も『薬屋のひとりごと』と共通しており、さらにはエリーゼの1回目の人生における婚約者、リンデン・ド・ロマノフとの関係性も見どころになっている。 壬氏と猫猫の関係性から目が離せない今、同じ「溺愛もの」の要素を持つ他作品のキャラクターとも関係性を並べてみることで、見えてくる面白さもあるだろう。各作品のヒーローとヒロインのカップリングを“推したくなる理由”には、実は共通点があるのかもしれない。何はともあれ、壬氏と猫猫に早く幸せになってほしいと願うばかりだ。
すなくじら