【ラグビー】元日本代表SH田中史朗氏が語る桜のプライド「みんなで勝利の喜びを共有したい」オータム・ネーションズシリーズ、11月2日(土)開幕!
世界のラグビーを牽引する北半球と南半球の強豪国が、欧州各国で戦いを繰り広げる「ラグビー テストマッチ 2024 オータム・ネーションズシリーズ」がいよいよ11月2日(土)から始まる。WOWOWでは全21試合をライブ配信するほか、注目の10試合を生中継する。 注目は日本代表の2試合だ。11月10日(日)にはフランス、25日(月)にはイングランドという欧州を代表するチームと対戦。今年再任したエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ率いる日本代表にとっての、2024年の総仕上げとなるビッグマッチは一瞬たりとも見逃せない試合になるはずだ。 その他、アイルランド、南アフリカ、ニュージーランドなど世界トップの国々がしのぎを削るこのシリーズについて、日本人として初のスーパーラグビープレイヤーとなったレジェンド、今年5月に現役を引退した元日本代表SH田中史朗さんに見どころをうかがった。 ・・・・・・・・・・・・・・・ ──11月、いよいよオータム・ネーションズシリーズが始まります。 「僕が日本代表として戦っていた2019年ごろまではヨーロッパの国々との対戦は少なかったのですが、こうして戦う機会が増えてきました。日本代表が世界の技術やメンタルを学べるという意味でも、いい傾向だと思います」 ──シリーズ初戦は11月2日(土)のイングランドvsニュージーランドです。 「勝ったり負けたりのライバル関係が続いている、興味深いカードですね。僕個人としては見ていておもしろいラグビーをするのはニュージーランドです。イングランドはキックを蹴ってそこにプレッシャーをかけて手堅いラグビーをしますが、日本代表としてはニュージーランドのラグビーの方が学びは多いと思います」 ──そのニュージーランドは今年8月から9月にかけてのザ・ラグビーチャンピオンシップで優勝を逃しました(2位)。今の新体制をどう見ていますか? 「メンバーが大きく変わったことで少し苦労しているのではないでしょうか。あとは(ニュージーランドに連勝し5大会ぶりに優勝した)南アフリカにはブラウニー(元ニュージーランド代表、元日本代表コーチのトニー・ブラウン氏)がコーチとして行ったこともあってさらに自信をつけていますので、ニュージーランドは負けるべくして負けたような印象を受けました」 ──その南アフリカはW杯を連覇し、今年のザ・ラグビーチャンピオンシップも制しました。やはり印象は変わりましたか? 「そうですね。FWだけのチームではなくなりBKでもトライを取れるようになってきましたし、むしろBKにボールを回している印象があります。以前の南アフリカのラグビーとは違うおもしろさがあるので、ファンも増えているのではないでしょうか」 ──イングランドvsニュージーランドから始まるこのシリーズですが、その他にも注目しているカード、チームがあればお願いします。 「今はアイルランドのラグビーが一番おもしろいと思っているので、11月9日(土)のアイルランドvsニュージーランドも非常に楽しみです。アイルランドは日本代表がやりたいラグビーの完成形と言えるスタイルを確立し、完璧と言っていいほどのラグビーをしています。 両チームともにレベルが上がっている11月10日(日)のイタリアvsアルゼンチンもいい試合になると思います。イタリアは7月の日本代表戦もそうでしたが、今までとは違った戦い方をしています。アルゼンチンも世界トップクラスの成長を見せています。 世界のトップ4に入れるような戦い方をして日本代表が崩せなかったフィジーは11月23日(土・祝)にアイルランドと対戦しますが、こちらもどんな試合になるか注目しています。 また、フランスの試合も全部おもしろそうですね。11月10日(日)の日本代表戦はもちろん、17日(日)のフランスvsニュージーランドは世界ランキング4位と3位の対戦になります。どちらが強いのか決まる試合なので、楽しみです」 ──そんな強豪がひしめく中、日本代表は11月10日(日)にフランスと、25日(月)にイングランドと対戦します。 「今の日本代表は間違いなく努力していますが、まだ取り切るべきところで取り取れないケースが多く、ディフェンスでも止められそうなところで止められないなど、僕が若かった頃の代表に少し戻っている感じがあります。チームの改善は彼らにしかできないことなので、努力してもらうだけだと思っています。 そんな中でも、CTBディラン(・ライリー)のプレーは神がかっていますね。彼の個人技に頼ってしまっている印象もありますが、日本代表はチームとして彼をもっとうまく使う戦い方をすることを期待しています」 ──日本代表が掲げている「超速ラグビー」の軸となるSHとSOについてはいかがでしょうか? 「組み合わせをいろいろと試すのはいいと思います。ただ、ハル(SO立川理道キャプテン)はいい選手ですしキャプテンシーも持っていますが、このまま27年W杯までいけるのか、という問題はありますので、今回は外れた李承信選手、松田力也選手、髙本幹也選手に今後チャンスをあげてもいいのではないかと思います」 ──SHに関しては田中さんが高く評価されてきた藤原忍選手が先発に定着しつつあります。 「能力が本当に高く、試合を見ていてもすごくいい判断をしています。だからこそ彼のような選手には世界にチャレンジしてほしいです。そうすればプレッシャーにも強くなりますし、プレーの幅も広がります。その点、齋藤直人選手は世界に出てプレーしており(フランスリーグTOP14トゥールーズで活躍中)、彼の持ち味を存分に発揮しています。すごくいい経験をしていると思いますね」 ──また、今回はFL/NO8姫野和樹選手が代表に復帰しました。 「23年W杯のキャプテンですし、チームにもすごくいい影響を与えているはずです。パフォーマンスの面ではもちろん、W杯やスーパーラグビーでも活躍した経験を持つプレイヤーなので、他の選手にもいろいろなことをもたらしてくれると思います」 ──そんな日本代表は、まず11月10日(日)にフランスと対戦します。 「いわゆる“シャンパンラグビー”ではなくなっていた時期もありましたが、また本来のラグビーが戻ってきそうな印象を受けています。戦う相手としてはすごく嫌なチームです。試合のキーポイントはやはりセットピースではないでしょうか。あとはディフェンスですね。今の日本代表はいいディフェンスをする時もあれば一瞬の隙に取られることもあるので、ペナルティに警戒しながら集中力を保ちしっかりディフェンスできれば勝機はあると考えています」 ──セブンズ(7人制)フランス代表としてパリ五輪で金メダルを獲得し、再び15人制代表スコッドに復帰したSHアントワンヌ・デュポン選手についてはいかがでしょうか? 「極めて能力が高い、素晴らしい選手です。トゥールーズでも華々しく復帰していましたし、セブンズの経験を活かしたキックチェイスのスピードは脅威です。日本代表としては彼にしっかりプレッシャーをかけて簡単にボールを持たせない状況を作ることが大事になると思います。また、FBトマ・ラモス選手はキックが正確なので、ペナルティにも注意が必要です」 ──日本代表としてどのような展開に持ち込みたいでしょうか? 「やはりロースコアに持ち込むことですね。相手に取られなければ負けない可能性が高まるので、あとは取れる時に取り切ることです。プレーを継続しながら、でも継続しすぎて体力やスピードがなくなって取られるケースもあるので、インパクトのあるアタックをしてほしいと思います」 ──さらに日本代表は11月25日(月)にイングランドと対戦します。 「イングランドは堅いラグビーをしてきます。ただ、23年W杯でも今年6月の対戦でもまったく崩せなかったわけではないので、やはり取れる時に取り切ることがこの試合でも大事になります。あとは相手のハイボールへの対策が重要です。日本代表も最近はハイボールキャッチがよくなっていますが、ではそこからどう攻めるか、ということをもっと考えてほしいですし見せてほしいと思っています」 ──23年W杯からの約1年間で3度目の対戦になります。 「僕からするとうらやましい限りですが、ただ対戦するために現地に行っても何の意味もありません。体を酷使しながら、勝つことだけを考えてプレーしてほしいです」 ──特に警戒したい選手をお願いします。 「FBのフレディー・スチュワード選手はキック、キャッチ、ランなど全部できる選手なので気をつけないといけません。もちろんSOマーカス・スミス選手もあらゆるスキルを使って仕掛けてくる選手ですし、6月の試合でも彼にやられました。 でも、彼らもあくまで一選手なので、チームとして対応すれば問題ないはずです。FWとBKのつなぎ目からよく突破された印象がありますので、日本代表はもっとコミュニケーションを取って対応してほしいです。やはり勝ってもらわないと桜のエンブレムのプライドがどんどん傷ついていきます。試合ではそこをもっと強く意識してほしいと切に願っています」 ──各国がプライドをかけて戦うオータム・ネーションシリーズですが、田中さんが考える見どころをお願いします。 「それぞれの国にカラーがあり、いろいろなラグビー、いろいろなスタイルを見ていただいて、見ていて楽しいなと思える国を見つけてほしいです。できれば日本代表にも注目していただきつつ、自分の好きな推しチームを見つけてもらえればもっとラグビー観戦が楽しくなると思います」 ──最後に日本代表への期待、メッセージをお願いします。 「勝ってほしいです。もう、勝つことだけですね。相手がどの国であろうと関係なく、自分たちよりもランキングが上のチームに勝つ喜びを味わえればもっと努力できるので、できればこのシリーズで全勝してみんなで喜びを共有できたらうれしいです」