日本の裁判官の質が低下している原因は「徒弟制」にあった…若手判事補の日常教育に潜む問題点に迫る
徒弟制的システム
次に、若手判事補の日常教育であるが、これは、昔ながらの徒弟制的なシステムによっている。 この徒弟制的システムの問題は、教えるほうのレヴェルやモラルが高い場合にはかなりの成果が上がるのだが、低い場合にはその逆のことが起こるということである。つまり、かえって悪くなっていく。 戦後しばらくの間、日本映画はその質において疑いもなく世界の最高水準にあった。これについては、敗戦と戦後の価値観の変動によって刺激された巨匠たちの危機意識が創造的なエネルギーとなって結晶したことと、徒弟制システムの成果、蓄積によるところが大きかったのではないかと私は考えている。 脚本、撮影、照明、編集、いずれも名人芸の結晶であり、何気ないカメラのオペレーション1つとっても、すうっと動いてここぞというところでぴたりと止まり、しかも、決して観客にカメラの動きを意識させたりしない。
キャリアシステムが劣化した原因
ところが、その後、日本映画は、時代の変化やテレビの進出に伴う徒弟制システムの劣化、疲弊に伴い、見る影もなくその質を落としてしまった。職人たちの技術も心意気も失われてしまったにもかかわらず、旧来のシステムに代わりうる新たなシステムが構築されなかったことが、その劣化の根本的な原因であった。 現在の裁判所で進行しつつある事態もこれと似ている。教える側の質の低下に伴い、徒弟制的教育システムの長所が失われ、短所ばかりが目立つようになってきているのである。キャリアシステムが劣化した原因の1つとしてこのことを指摘する先輩は多い。 本来であれば、徒弟制的教育システムに代わる、また、司法研修所による中央集権、上意下達的で、内容も丸暗記中心の硬直した教育制度に代わる、より質が高くて開放的な教育システムの樹立、あるいは、最低限その方向に向けての司法研修所制度の抜本的な改革が必要であろう。 『“裁判所当局”が敷く厳しい「取材統制」…「開かれた裁判所」というイメージは“マスメディア”によって作られたものだった』へ続く 日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行され、たちまち増刷されました。 「同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」「なぜ、日本の政治と制度は、こんなにもひどいままなのか?」「なぜ、日本は、長期の停滞と混迷から抜け出せないのか?」 これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。
瀬木 比呂志(明治大学教授・元裁判官)