スタートしたばかりの逆輸入ボクサー坂井祥紀の挑戦 ―2度目の防衛戦
12月2日、後楽園ホールのメインイベントは日本ウェルター級タイトルマッチ。2度目の防衛戦に臨むチャンピオンの坂井祥紀(横浜光)は珍しい「逆輸入ボクサー」だ。メキシコで長く戦い、その後日本に拠点を移してボクサー生活を送っている。その実にユニークな経歴を紹介しよう。 兵庫県尼崎市出身の坂井がボクシング強国メキシコに渡ったのは、高校を卒業したあとのことだ。当時19歳。もともと3ヵ月だけのボクシング修行感覚だったが、そのまま現地でプロデビューし、10年近くもメキシコに滞在していた。 メキシコシティでは名マネジャー、ナチョ・ベリスタインのロマンサジムに通った。下宿はあまり治安のよくない地区にあったが、かの国でボクサーは一目置かれる存在で、その点坂井は暮らしやすかったという。 例にもれず4回戦ボクサーからスタートして、ファイトマネーの最低額は2万円。最初の半年間に5試合こなし、5試合目は5万円ほどにアップしていた。 連日のスパーリング練習でダメージをため込まないように、潰されないようにと率先してディフェンスに取り組んだ。ガードの使い方やスタミナの浪費を抑える最小限の動き等、現在の坂井のボクシングスタイルはここで作られた。 メキシコで暮らした間に36戦して23勝(13KO)11敗2分。26試合をメキシコで、のみならずアメリカで9戦、そしてニカラグアで1戦戦った。WBCユース・スーパーライト級王者になった経験もある。
■主戦場はメキシコからアメリカへ
メキシコで活動し、本場アメリカのプロモーションから声がかかるようになったことは坂井のひとつの成功といえる。2017年8月には、ラスベガスでアシュリー・ティオフェン(イギリス)を8回判定で破った。これは坂井の長い拳歴でも忘れられない1勝になった。相手のティオフェンは2戦前に世界タイトルマッチに挑んだばかりの格上で、試合はフロイド・メイウェザーが主宰するプロモーションのイベントだった。坂井のファイトマネーは1万ドルだったという。 しかし本場ゆえアメリカのリングは厳しく、勝ちから見放される時期が続いた。メキシコ国内に比べて対戦相手のレベルが上がるうえに、Bサイド、つまり引き立て役の立場で臨むことが常である。アメリカで4連敗を喫した坂井はトレーニング環境を整えるためにも、ここで帰国を決断した。2019年の暮れ、29歳になる直前のことだ。