水族館のクラゲが与える癒やし クラゲを見て自分の内面を振り返る
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涼しげな青い水槽のなか、ゆらゆらと漂うクラゲ。嫌われものだったのは過去の話、今では、その姿にいやしを求める人々から人気を集め、全国各地の水族館で展示されるようになった。約62年のクラゲ展示歴を持つ新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)でも、クラゲ展示により力を入れはじめたのを境に来場者数が増加傾向にあるという。
「かつては、嫌われる生き物の代表選手であり、『気持ち悪い』といって展示を素通りする人も少なくありませんでしたが、今ではよく見ていただけるようになりました」と話すのは、新江ノ島水族館で20年以上のクラゲ飼育歴を有する展示飼育部の学術員で飼育技師の足立文さん。 同水族館がクラゲの展示をはじめたのは、旧江ノ島水族館時代の1954年。クラゲは泳ぐ力が弱く、何もしないと水槽の底に沈んでしまうので、クラゲがただよえるよう水流を作ってやる必要がある。水槽の海水をろ過するため、クラゲが吸い込まれないように、小さな穴が多数空いた板でクラゲのいる水槽とろ過装置をさえぎらねばならない。そうした飼育ノウハウを積み上げて、今日にいたっている。
展示開始当初はもとより、足立飼育技師がクラゲを担当しはじめたころも、クラゲを展示する水族館は今よりも少なかったという。数が減っても他の水族館とクラゲをやりとりできないため、育てて増やす取り組みにも力を入れた。 2013年に同水族館のクラゲ展示はリニューアルされ、現在は、半ドーム型の部屋の壁などに水槽を配置した「クラゲファンタジーホール」と、クラゲの生態などを紹介する「クラゲサイエンス」がある。クラゲファンタジーホール内には椅子が設置してあり、クラゲを座って見ながら寝てしまう来場者もいるという。 足立飼育技師は、「クラゲを見ながら、いろんな面倒なことから解き放たれて、リラックスしてもらえれば」と話していた。 クラゲ水槽の前には、3人の孫の写真を撮っていた町田市在住の50代女性の姿が。仕事は塾の事務職。「職場をはじめストレスはいろいろある」とこぼすが、クラゲの展示については「確かにいやす効果がある。家にあるといいなと思う」と微笑。埼玉県から来たという高校2年生の女子2人組は、クラゲにいやし効果があると思うか尋ねると何度もうなずいたあと、「ぷかぷかしているところがいい」、「いやされる」と満足気だった。 (取材・文:具志堅浩二)