「地方を軽く見ていやしないか」“絶対的重鎮”金田一春彦に真っ向から挑んだ静岡の「方言学者」
放送批評懇談会が日本の放送文化の質的な向上を願って、優秀番組や個人、団体を顕彰するために、1963年に創設した「ギャラクシー賞」。2023年度「ラジオ部門」で大賞を受賞したのが、「SBSラジオギャラリー 方言アクセントエンターテインメント~なまってんのは、東京の方かもしんねーんだからな~」 【写真を見る】「地方を軽く見ていやしないか」“絶対的重鎮”金田一春彦に真っ向から挑んだ静岡の「方言学者」 この番組では、日本語のアクセントに注目し、「静岡県内の一部や栃木県などの人が話すアクセントのない言葉こそが、もともとの日本語で、いま標準語とされる東京の言葉の方がなまったものかもしれない」という説をさまざまな例を挙げながら考察していった。この番組内容を再構成し、記事化した。 言語学者の金田一春彦(1913~2004)をはじめとした国語学界の主流の考え方では、茨城弁や栃木弁、さらに宮崎弁のような「無型アクセント」は、各地方でアクセントが単純な方向へ変化し、最終的になくなった「なれの果て」だとされている。 一方、旧静岡県新居町(現湖西市)で燃料店を営みながら、方言研究を続けた山口幸洋(1936~2014)は、これに真っ向から対立する仮説を立てた。日本語の最も古い形として「無型アクセント」は元々日本で広く話されていた。そこに大陸からアクセントのある言葉が持ち込まれ、影響を受けて、日本語は次第にアクセントを持つようになる。しかし、それが波及せず、現在まで残っているのが「無型アクセント」地域なのだ、というのだ。 ■「山口さんは方言研究界の中でも恐れられた人」 だが、この山口の仮説には、大きなネックがあると奈良大学の岸江信介教授は指摘する。「言葉は複雑なものから単純なものに変わっていくのが、世界的に見てもセオリー。その点で山口説は、単純なところから複雑な体系への変化を想定しなければならない」。 一方、金田一説は「複雑なアクセント体系が単純なものに変化していく想定で、川上から川下に流れるように自然」(岸江教授)だという。