「寄生虫のように居続けるつもりか」自衛隊内での嫌がらせ ハラスメント認定で国に賠償命令
「こういう体だからどこも取ってくれなかった」
隊に復帰してからおよそ1年間は、理解のある中隊長の下、体力維持のために課される体力検定(3000メートル走、腹筋、腕立て伏せ)の免除など、「恵まれていた」(渡辺さん)が、中隊長が代わり対応が一変した。 面接で「自衛隊という組織にそぐわない。“寄生虫”のように自衛隊に居続けるつもりか」などの罵倒もあったという。 一つの社会とも評されるほど、自己完結性が高い自衛隊には、さまざまな職種がある。第一線の自衛官としての活動ではない、座ったままでも行える後方職種に配置換えを求められる、あるいは自ら求めることはなかったのか。筆者の問いに渡辺さんは、「こういう(障害のある)体だから、(他の部隊・部署の)どこも取ってくれなかった」と振り返った。
「先輩、仲間から『やめるな!』の後押し」
渡辺さんは陰湿とも言えるパワハラを受けていたが、「私はメンタルが強いほう。死のうと思うことはなかった」と語る。中隊長が“求める”通り、依願退職を決め、伝えたこともあったが、次の仕事が見つからなかった。 「やめるな!」という隊の先輩、仲間らの声援も後押しもあり、34年間にわたった自衛隊での職務を“完遂”し、2020年5月に定年退職した渡辺さん。 判決では「障害を抱えていながら、長期間にわたり、日常的に5階までの階段の昇降を余儀なくされ、また、私有車の保有及び使用が認められず、車両での移動ができないことにより、心身の健康を損ないかねない肉体的・精神的負担を強いられたほか、必要かつ相当な域を超えた服務指導により過度の心身の負担と精神的苦痛を受けたことが認められる」と、訴えがほぼ全面的に認定された。 判決について、渡辺さんは「(裁判長に)気持ちをくんでいただいた。満足のいく判決」と述べた上で、「ごく限られた方が良くない思いを持ち、よくない行為をする。改善してほしい。(今回の判決で自衛隊が)良い方向に進んでほしい」と静かに力強く申し送った。
榎園哲哉