Apple Vision Proは働き盛り世代の「価値ある60万円の使い道」になるか
近視、老眼になる前の視界が蘇る
筆者は自宅のワークデスクが狭いので、いわゆるセカンドディスプレイを導入していなかった。Apple Vision Proでマルチディスプレイ環境の有用性を初めて実感した。また背筋を伸ばした状態で、視線と平行になる位置にMac仮想ディスプレイの「高さ」が調整できる。ストレートネックによる身体への負担も解消されそうだ。 ■近視、老眼になる前の視界が蘇る Apple Vision Proは裸眼で装着して使うデバイスだ。筆者のように視力の弱いユーザーも、アップルとカールツァイスが共同開発した光学インサート(補正レンズ)のオプションを装着すれば裸眼のまま快適に使える。コンタクトレンズは単焦点ソフトレンズとの併用は可とされているが、ハードタイプのコンタクトレンズや美容目的のカラーコンタクトレンズは非対応になる。 筆者はアラフィフを迎えてすでに目のピント調節の能力が低下している。普段は小さな文字が書かれている書籍や書類は、目元から適当な距離を離さないと見づらくてたまらない。Apple Vision Proのデジタル空間の中では、近くから遠くまで視界全域にほぼピントが合う。近くの文字がストレスなく読める心地よさを久しぶりに味わった。 Apple Vision Proのメインカメラによる高精細なパススルー表示と、内蔵する高性能なTrueDepthカメラ、LiDARスキャナを活かして、人間の視覚能力だけでは検知できない情報をセンシングしてユーザーに伝える様々な使い方がvisionOS上に実現できそうだ。医療にスポーツ、遠隔コミュニケーションなど、人間が持つ感覚を超えて支援するアプリやサービスが多くのデベロッパによって生み出されることを期待したい。
背もたれのあるイスがあれば本体の重さを逃がせる
■背もたれのあるイスがあれば本体の重さを逃がせる 600g以上あるApple Vision Proは重くないのか? 本機に興味を持つ多くの方が気になっているポイントのひとつだと思う。6月28日以降は、事前に予約を済ませれば全国のApple Storeで無料体験ができる。Apple Vision Proに同梱される「ソロニットバンド」と「デュアルループバンド」のどちらを使うかによって重さの体感が変わる。できれば両方試してみると良いだろう。 おそらくApple Storeでは試せない筆者の体験をひとつ補足しておこう。 筆者が仕事場で使っている、大きな背もたれとリクライニング機能のあるゲーミングチェアなどであれば、Apple Vision Proを装着した状態で後頭部の方にデバイスの重さを逃がせる。1時間以上に渡るビデオ会議や、長尺のドラマや映画を見てもデバイスの重さに疲れる感覚はなかった。時々立ち上がって歩く際に気をつければ、専用バッテリーパックはデスクの上に置きっぱなしにできるので負担にはならないだろう。 ■WinユーザーもApple Vision Proユーザーになれるのか Mac仮想ディスプレイやAirDropによるファイル転送などに対応するApple Vision Proは、アップルのエコシステムとシームレスに連係するデバイスだ。しかし、メインのPCにはWindowsを使っており、Macは持っていないという方もApple Vision Proをスタンドアロンな空間コンピュータとして楽しめる。Bluetoothキーボードやマウス、トラックパットなどの周辺機器の接続にも対応している。 ひとつ注意すべきことは、商品を注文する段階でアップルの「Face ID」を使った顔のスキャンを行い、正確にフィットする最適なライトシーリング(遮光パーツ)とヘッドバンドのサイズを見つける手順を踏まなければならない。Face IDを搭載するiPhoneまたは、iPadが必要になる。 自宅で腰を据えながらApple Vision Proを使用してみて、筆者はこの高度なテクノロジーと洗練された空間ユーザーインターフェースによる体験を実現したデバイスに、およそ60万円の値が付く理由があることに腹落ちした。だからと言ってポケットマネーだけで、ためらうことなく手に入れられる価格でもない。 アップルに、これから全力で空間コンピュータの価値を広く伝える意思があるならば、中長期間のデバイス・サブスクリプションサービスをつくるべきだと筆者は思う。空間コンピューターの魅力を実感として知っているファンをできる限り増やすことは、Apple Vision Proが成功する近道になると確信しているからだ。
山本 敦