空席広がる「緑のアルプス」、未来への一歩に センバツ交流試合開幕
2020年甲子園高校野球交流試合は第1日の10日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で2試合があった。昨秋の四国大会王者・明徳義塾(高知)は鳥取城北に6―5で九回逆転サヨナラ勝ち。開幕試合は2017年夏の甲子園優勝校・花咲徳栄(埼玉)が一回に挙げた3点を守り切り、3―1で大分商に勝利した。交流試合は12日までの前半と、15~17日の後半の計6日間にわたって行われ、今春のセンバツ出場32校が登場する。 【写真特集】明徳義塾―鳥取城北 ◇「白球飛び交うところに平和あり」 甲子園にいながら眼前に広がるのは、空席のベンチの濃い緑色ばかり。アルプススタンドにブラスバンドの姿はなく、保護者らの拍手と選手たちの声だけが響く。 新型コロナウイルスの感染予防が徹底される中で始まった交流試合だ。いつもと違う雰囲気の中、高校球児で今年初めて甲子園の打席に立った大分商の渡辺温は見逃し三振。「今までで一番、緊張した」と笑った。 その表情と言葉を聞いて黒田脩さん(91)を思い出した。戦後初めて夏の選手権大会が西宮球場で開かれた第28回大会の開幕試合で、京都二中(現鳥羽)の1番打者として打席に立った人物だ。黒田さんも「緊張していた」とバットが振れず、四球だった。 大会が開幕したのは終戦からちょうど1年後。黒田さんは「球場の周辺には傷病兵がいた。食糧難で米の取り締まりがあり、控え選手が腹の中に隠して宿舎に運んだ」と振り返る。そんな状況でも、大会が行われたからこそ「野球ができることに喜びを感じていた」と話していた。 1―3で試合には敗れた大分商の渡辺温も「初めての甲子園で、このメンバーでできて楽しかった」と満面の笑みで喜びを語っていた。 「白球飛び交うところに平和あり」との言葉がある。新型コロナウイルスの影響で春と夏の甲子園は中止に追い込まれた。だが、球児の笑顔と白球を追いかけるひたむきさは、今年も甲子園に戻ってきた。明るい未来への「一歩」になることを願ってやまない。【安田光高】