クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。/紹介書籍『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』
ヒューマニティ、つまり人間らしさが武器になる
ライブハウスで仲間と音楽を奏でる。クラブで好きな音楽に合わせて踊る。好きな劇団の公演を観に行って感動する。美術館に展示されていたアート作品に心が震える。 小野寺伝助さんの読書案内「クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。」 音楽、演劇、芸術といった文化活動を愛好にする者にとって、それらを楽しむ時間は心を豊かにし、日々に彩りを与えてくれる。暮らしに欠かせないものだ。それはここ日本に暮らす私たちだけではなく、国籍や年齢を問わず世界共通だと思う。音楽や芸術こそが、人間を人間たらしめ、その国や地域の文化を固有なものにしてきた。 一方で、そういった文化活動が趣味や娯楽という枠を超えて「抵抗」という意味合いを帯び、文化活動の拠点が狙って空爆される場所がある。 パレスチナのガザだ。 イスラエルによって占領されるガザの人々にとって、人間らしさを維持するための文化活動は「抵抗」となり、その活動拠点はイスラエル軍による破壊の対象となってきた。 2023年10月以降にテレビやネット等の情報に少しでも触れていれば、いまパレスチナのガザがイスラエルによって侵攻されていることを多くの人が認識しているだろう。しかし、なぜガザがこのような状況になっているのか、どのようなことがガザで起きてきたのか、その歴史も踏まえて現実をちゃんと理解している人は少数派だと思う。 私が憧れてきたパンクスの信条の一つは「NO WAR」だ。多くのパンクバンドが反戦を掲げ、国家や為政者による暴力を否定してきた。イスラエルによるガザへの侵攻に対し、パンクスなら当然NO WARのスタンスだ。しかし、歴史や背景を知らぬまま「なんでいきなり戦争が起きたんだ?」とか思いながら「NO WAR!」と叫ぶのは不甲斐ない。 そんな私のような不甲斐ないパンクスには『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』を差し出したい。 本書はイスラエルによるガザへの未曾有のジェノサイド攻撃が開始されて間もない2023年10月下旬に早稲田大学と京都大学で行われた岡真理による緊急講義の内容を編集し、2023年12月に緊急出版されたものだ。 本書を読むことで、いま起きてるジェノサイドの背景にある歴史を学び、現在を知ることができる。それはガザの人々と連帯し、共にクソみたいな世界を変えるための第一歩となる。逆にもし、酷い現状を前に無力感を覚えて、諦めて、知識や関心を放棄しているのなら、それは暴力に加担することに繋がる。 著者の岡真理は、前著『ガザに地下鉄が走る日』においてこう綴っていた。 「無知がホロコーストというジェノサイドを可能にしたのだとしたら、繰り返されるガザの虐殺を可能にしているのは、私たちの無関心だとも言える」(P.248) 日本で暮らす私たちは、遠くのガザに無関心でいられる。あまりにも酷い現状も、関心を向けなければ知らずにいられる。知らないままでいると、楽だ。知らないままでいれば、イスラエルを支援するグローバルチェーンでコーヒーを飲んだり、ハンバーガーを食べたり、普通に楽しんだりできる。普通に日常生活を送れる。世界が無関心なら、イスラエルは侵攻を続けられる。 関心を向け、現実を知ると、他人事ではいられなくなる。他人事ではいられないとはつまり、ガザの人々にヒューマニティを見いだすことだ。それはイスラエルの為政者が「ヒューマンモンスター」「ヒューマンアニマル」という言葉でパレスチナ人を非人間化することの対局に位置する、とても人間的な行為だ。 著者は本書においてこう言う。 「私たちは闘っています。何人の人間性も否定されることのない世界のために。(中略)ヒューマニティこそが、私たちの武器です。人間の側に、踏みとどまりましょう。」(P.147) ヒューマニティ、つまり人間らしさが武器になる。誰もが持っているはずのそれを手放さないように。自分にできることを考え、行動し、また本書を読み返しては考えることを続けたいと思った。