値上げラッシュに立ち向かうサイゼリヤを投資家目線で見てみると?【坂本慎太郎の街歩き投資ラボ】
『週刊プレイボーイ』で連載中の「坂本慎太郎の街歩き投資ラボ」。株式評論家の坂本慎太郎とともに街を歩き、投資先選びのヒントを探してみよう。金のなる木はあなたのすぐ近くに生えている! 【図表】サイゼリヤ株価の値動き 今週の研究対象 値上げしない飲食店(サイゼリヤ) 値上げラッシュが続く中、その潮流に対してかたくなに逆張りを続ける会社がある。その代表例がサイゼリヤだ。消費者目線ではうれしいけど、投資家目線ではどう評価すべきか? 助手 コロナの行動制限がなくなってからもう1年たったらしいですよ。 坂本 コロナが感染症法の5類に移行したのは2023年5月でしたね。 助手 最近はコロナ以前の日常が戻ってきたのを実感してます。先日、行きつけの飲食店がアクリル板を撤去したのを見て「いよいよコロナ前に戻った」と感動しちゃいましたよ。 坂本 生活実感だけじゃなく、企業業績もコロナ前に戻りつつあります。外食業界は4月に決算を発表する企業が多いんだけど、業績がコロナ前を上回ったケースも多かった。 助手 そんなに回復してるのか。 坂本 人出が戻って客数が増えたからね。物価の上昇でメニューの値上げも許される風潮になったのも追い風です。物価の上昇以上に値上げして利益を確保した企業も多かった。 助手 客数も単価も増えたんだから儲かるわけですね。「外食産業は復活する」ってコロナ中から所長の持論でしたけど、僕は乗り遅れまして。今から投資できる企業はもうない? 坂本 いや。まだ大本命が残ってる。サイゼリヤは、ここからが勝負です。 助手 そんなメジャーな企業、すでに株価が好業績を織り込んでしまって投資の余地はないと思ってました。 坂本 確かに業績はコロナのどん底から復調していますが、本来はもっと利益を出せるはずなんです。何しろ、第2四半期までの営業利益59億円のうち、国内での稼ぎはわずか3400万円だけですからね。営業利益の9割以上が日本以外のアジア圏の店舗からなんです。 助手 え、日本の店舗だってかなりお客さんが入ってるように見えますよ。なんで稼げてないんですか? 坂本 さっき、外食企業の業績好調の理由として、客数の増加と単価の上昇って話がありましたよね。サイゼリヤは客数「だけ」が増えてる状況なんですよ。上期の既存店の客数は前年同期比約19%増で、競合と比べてもかなり強い数字です。でも、値上げをしていないから利が薄い。 助手 他社はバンバン値上げしてるのに、なんでサイゼだけ価格を死守してるんですか? 坂本 ふたつの可能性がある。ひとつ目は「まずは価格維持で集客してから、後で値上げして利益を刈り取ろう」という発想。ふたつ目は単純に「客数を増やして経費を削れば利益は出る」という薄利多売の考え方。 助手 人口減少社会で薄利多売って難しくないですか? 坂本 まぁね。でもサイゼリヤは他社に比べてDXが遅れていて、まだ経費を削れる余地があるのは確か。薄利多売でも一定の勝ち目はある。 助手 サイゼは客が紙に注文を書いて店員に渡すという中途半端な合理化をしたんですよね。テーブルに端末を配置すればラクなのに! 坂本 そう、そこです。でも、同社はここにきてセルフレジの全店導入を決めるなど急にDXに取り組み始めました。長期的には人件費削減効果などで利益貢献が見込めますよ。 助手 でも投資が先行しますよね。直接的に値上げすれば早いのに。 坂本 まさに。集客が強いだけに、もし値上げに踏み切ったらすぐに利益が出る。絶好の投資チャンスです。 助手 でも、かたくなに値上げしなかった企業が決断できますか? 坂本 可能性は低くないと思う。サイゼは食材の自社生産でコストを下げつつ品質を確保してるんですが、集客しすぎて今や食材を外注してるんです。これは本来やりたくないはず。コスト転嫁の策として値上げもありえると思います。 今週の実験結果 集客は圧倒的に強い。買う際は、集客力を生かす施策の動向を注視しましょう 構成/西田哲郎 撮影/榊 智朗